鉄仮面戦記

竜の王と竜の姫 第三十二話

「お前達…… このように路上に布陣するだけで、あのヴォルディアックの奴に本気でたてつこうというのか? そもそも、お前達とは規格からして違うのだぞ、あの男は」 「誰だてめえは! いきなり、現れたと思ったら、変な魔法使いやがって!」 アル様の怒声に魔…

竜の王と竜の姫 第三十一話

村の前の小道に布陣してから一夜明けた。夜を徹しての布陣は、戦闘に影響が出かねないため、見張りを立てて一夜を過ごしたが、魔人が来ることはおろかその気配すら昨晩はなかった。 相変わらずの青い空を見上げながら、休憩の時間となった拙者は木の陰に座っ…

竜の王と竜の姫 第三十話

「あんさん…… あんさんってば、何をボケーっとしとるんですか?」 はっと俺は我に返った。目の前の柵越しに立っているのは先ほどの男。手に料理の乗った盆を持ってこちらの様子を伺うように立っていた。どうやら、俺が考えているところを見られたらしい。 俺…

竜の王と竜の姫 第二十八話

ほの暗い部屋の隅で俺は目覚めた。 暖かい。そう思って体を見ると、やけに毛が多い布が俺の体にかかっているのに気がついた。もたれかかった壁の冷たさ。これが無ければ風邪を引いていた、などという事は無いだろうが、きっとこんなに心地よく寝れる事はなか…

竜の王と竜の姫 第二十七話

「配置はここに示したとおりです。アル様、鉄仮面、ブラウン、バルは、隣国へ向かう道の路上で、魔人を待ち受けます。私、メイ、最長老様を含む魔法部隊は、この少し高い丘の上で待機。魔人と魔女の動向を監視します。残りの四部隊。まずは、森に配置された…

竜の王と竜の姫 第二十六話

俺様が会議室に入ると、既に鉄仮面、メイ、ブラウンを筆頭とする四村長と最長老、そしてフィルと兵達の代表格が円卓に座っていた。時間にはまだ早いと思っていたが、感心な奴らだ。 俺様が座る席を探していると、ノイの奴が一声して手招きする。案内された席…

竜の王と竜の姫 第二十五話

さて、どうした物だろうか。傷だらけという状態も問題だが、ドランの巨体を運ぶ事は少々どころか本格的に骨が折れそうだ。意識が戻るまで待つか…… そうするにしても、こんな満身創痍の状態で寝かしておいて、先ほどの奴らに襲われては身も蓋も無い。やはり、…

竜の王と竜の姫 第二十四話

「どうしたの? 鉄仮面、ボロボロじゃない」 満身創痍というか、年期が入ったというか。細やかな傷と、大小無数のへこみに体を蝕まれながら、拙者はついに、村へと帰ってきた。 村の入り口には、いつまでも本隊に追いつかない拙者を心配してか、メイ殿が立っ…

竜の王と竜の姫 第二十三話

手の中のペンダントをそっと横に置くと、俺様はなんだかむず痒くて頭をかいた。意思を継ぐものだとか、そういうのは俺様の柄じゃねえ。しかしまぁ、柄じゃねえとは思いつつも、ロゼの人柄を聞く限りそう呼ばれることに悪い気はしないが。 「…… まぁ、ロゼの…

竜の王と竜の姫 第二十二話

「まずはじめに…… 皆、勘違いしている事じゃが、ロゼ様は魔人ではない」 「? エルフの魔人って聞いたが、違うって言うのかい?」 「本来、魔人とはその強力な力ゆえに、獣や物と言った人外のものが人の形を模したものを言う。もとより、人の形であるエルフ…

竜の王と竜の姫 第二十一話

部屋の前では話せないと、老婆に連れ添う形で外へでたアル。まだ天頂から少ししか遠ざかっていない太陽は、燦燦と二人を照りつけてきた。それに、隠れるようなかたちで、枝の広い木の下に座り込むと、老婆は一息つく。 「で、何の話なんだ、婆さん? あの部…

竜の王と竜の姫 第二十話

「これか……」 ドランに頼まれた品を取りに、鉄仮面はドランが根城にしていた洞窟に向かった。難民達の護衛はとりあえず部下達に任せた。おそらく、上手くやってくれるはずだ。 道から随分と離れた森の奥。木々の合間に隠れるようにぽっかりとあいた入り口を…

竜の王と竜の姫 第十九話

「お〜い、鉄仮面! 大丈夫か〜い!」 森の中から抜け出てメイ達がやってくるのを待っていた鉄仮面は、その声に自分が登ってきた下り坂を振り向く。メイとフィル、そしてクトゥラがこちらに向かって歩いてきているのを確認すると、立ち上がり手を振る。 「な…

竜の王と竜の姫 第十八話

鉄仮面は冷静に相手の戦力を読む。 巨大で岩石のような体躯に、二本の大剣を難なく振り回す腕力。竜と違いリザードマンとはいえ、まともに打ち合って勝てるような相手ではないだろう。かといって、こちらの小回りの効く相手だろうか。木に登っていた辺り、案…

竜の王と竜の姫 第十七話

出発してから二・三時間立っただろうか。鉄仮面たち一向は峠の頂点付近まで来ていた。 既に太陽は頂点に指しかかろうとしている。予定ではもう既に難民達と合流しているはずなのだが、何故だか前の方から人がやってくる気配は無い。 「おかしいわね。予定じ…

竜の王と竜の姫 第十六話

旅程は順調だった。 竜の翼で一刻もかからぬ所にある国境の山裾での一日目の野営を終えて、鉄仮面たちは出立の準備と共に以降の旅程を確認し合っていた。 「すると、丁度峠の少し手前辺りで、難民達と遭遇するということか」 「えぇ。既に、難民の戦闘は山の…

竜の王と竜の姫 第十五話

アルが大魔王としてエルフ領に立つ事を宣言した翌日、鉄仮面は慌しく旅支度をしていた。 連れて行くのは、鉄仮面が手塩に育てたエルフの青年達数名。ブラウンの方針か、村民の多くは多少なりの武術の心得があったため、そこそこの調練を行う事ができた自慢の…

竜の王と竜の姫 第十四話

「え、あ、え? その、あの……」 いきなり蚊帳の外から内側に引きずり込まれた少女は、いったいどうした物かといった感じに当たりを見渡している。 はて、こんな少女、この村に居ただろうかとアルは思考をめぐらせるが、該当する顔は記憶の中に見当たらない。…

竜の王と竜の姫 第十三話

「おね〜ちゃん! ただいまぁ〜!」 ドアを押し開けて飛び込んできたちぃ。仕事を終え、一段落にと外の景色を眺めていたメイは、振り返るとうれしそうにリンゴを抱えているちぃににっこりと笑いかけた。 「おかえり、ちぃちゃん。いっぱい取れた?」 メイの…

竜の王と竜の姫 第十二話

「つまり、俺がおとなしく去らないなら、手段は問わないって事だな」 「エルフ自治領は、強大な四国に周囲を囲まれながら、各部族が協力する事で長らくの独立を保ってきました。何者の力も借りずに。今までも、そしてこれからも。貴方の存在は、エルフ自治領…

竜の王と竜の姫 第十一話

「……という具合にだな、俺様はちぃを預かり育てる事を、その女に誓ったというわけだ。その時、そいつが拵えてくれたのが、この城ってわけ。とまぁ、俺が話せるのはこれくらいかな」 押し黙る三人のエルフ達。しゃべりつかれたのか、アルは背中を椅子にもたれ…

竜の王と竜の姫 第十話

「どうしたの、おばあちゃん?」 心配そうに老人の顔を覗き込みちぃが言う。眠っていたのか、少しばかりはっとしたように体を震わせ、老人は鉄仮面たちのほうへ顔を向ける。 服装はおおむね、鉄仮面の村に住むエルフ達と相違ない。どこにでも居そうな、ごく…

竜の王と竜の姫 第九話

魔法の手前大人しく椅子に座るアル。それを囲むようにエルフが三人。 正面の椅子に陣取るのはノイ。どうやら、この中のリーダーはこのノイという女エルフらしい。さて何からはじめようかといった具合に、先ほどからぺらぺらと魔導書をめくっている。 「不服…

竜の王と竜の姫 第八話

「おぅ、アル。お勤め、ご苦労さん!」 大量に積まれた書類の中で死んでいたアルは、そのムカつくほどに陽気な挨拶に眉をひそめて体を起こす。何せ、やってきたのが自分にこの厄介な仕事を押し付けた元村長なのだ、無理も無い。 「ブラウン! てめぇ、簡単な…

竜の王と竜の姫 第七話

驚く間も与えず、少女は鉄仮面の腕の中に飛び込むと、胴回りにそのか細い腕を絡み付ける。鎧の下から覗かせたその体は、まさしく少女。鎧よりも、ドレスのほうがどれほど似合うだろうか。 そんな少女が自分の体をぎゅっと抱きしめているのだ。鎧だけの身の上…

竜の王と竜の姫 第六話

「おかしな男ね。村長の家臣のくせに隣の国のことも知らないだなんて」 「隣の国?」 「そうよ、このエルフ自治領の西。この山脈を越えた先にある国。そこが竜の国」 この山脈の向こうに国がある。まさか、この村以外に村が無い、また国が無いとは思ったこと…

竜の王と竜の姫 第五話

「……だから言ったでしょう、ちぃ殿。モンスターかもしれないと」 こちらを見つめるドラゴンの目を見据え、前に出ると鉄仮面はちぃを背中に隠そうとする。 「! 見て、お兄ちゃん、あのドラゴン怪我してる!」 「?」 改めてみれば、確かにその臥しているドラ…

竜の王と竜の姫 第四話

文字通り、鉄の壁と化した鉄仮面。その後ろから、まだ尾を引くのか森の奥を見つめ続けるちぃ。 「…… お兄ちゃん」 「なんです? ちぃ殿」 「ここから先に行っちゃ駄目?」 「駄目に決まっているでしょう。アレはモンスターかも知れないんですよ。ちぃ殿なん…

竜の王と竜の姫 第三話

「ちょうど良いところに来たなぁ、鉄仮面」 ニッコリとアルが鉄仮面に微笑みかける。 「本当に。主君の危機に颯爽と参上するなんて、騎士の鏡ね」 アルにも増して笑みをつくり、メイが鉄仮面に語りかける。 「? い、いやぁ、その。なんというか、良く分かり…

竜の王と竜の姫 第二話

「ヒーマーダナー、なぁ、ちぃ?」 「ヒーマーダーネー、ねぇ、パァパ?」 ちょっこりと膝の上にちぃちゃんを載せて、玉座に座っているアル。暇と言う割には、随分と楽しそうなのは娘と一緒に居るからだろうか。浮ついた表情で体を揺らし揺らし、二人楽しそ…