2011-04-01から1ヶ月間の記事一覧

「ビネガーちゃんは俺と旦那の通訳をする」

その男は赤い四足のソファーに背中をしっかりと付けて座っていた。皺の深い目元に白髪の髪。口元に髭はなく、こけた頬がむき出しになっている。厚ぼったい瞼は瞳を覆っていて、俺たちが入ってきたというのに、開く気配が感じられない。涼しげに、まるで日光…

「ビネガーちゃんは老人の相手をする」

「まさか、そんな、アタシは御呼ばれしただけですよ。ここの主人さんは、アタシの所謂パトロンさんの一人でしてね、色々と世話して貰ってるんす。ご飯の世話とか、寝床の世話とか、お小遣い貰ったりとか。その代り、私も彼の世話をしたりして。持ちつ持たれ…

「味噌舐め星人の放蕩」

屋敷は埃一つない、そんな綺麗な場所だった。入り口から階段に向って伸びている赤絨毯。突き当りの壁には大きな女の絵が飾ってある。和服の、別段美人でもなければ、ブサイクでもない、どこにでも居そうな普通の女性の絵だ。きっと、この家の主人の母か嫁か…

「味噌舐め星人の止血」

高速に乗って一時間とホームレス男は言ったが、それは間違いだった。しかも二時間も違っていた。高速が混んでいたわけでも、途中で誰かがパーキングエリアにトイレに寄った訳でもない。事故を起こす様なへまな運転手ということもなく、道中はすこぶる快適な…

「味噌舐め星人の捕獲」

「とりあえずよぉ、来てもらうぜ。俺達の雇い主がアンタに色々と聞かなくちゃならないことがあるんだとよ。なに、高速で一時間もかからないよ」 なに言ってるんだよこいつ。高速で一時間だって。腕の痛みに閉じていた瞼を上げれば、目の前には黒塗りのワゴン…

「味噌舐め星人の放蕩」 

「兄さん、若いのに最近ここら辺をうろついてるが、どうしたんだい」 「はぁ、別にそんなにうろついている訳じゃないんですが」 「嘘言っちゃいけねぇ。ここいらの住人、家付きも家なしも、ここん所は、突然現れたあんたの話題で持ちきりさ。いったいアイツ…

今週のお題「私の小さなこだわり」

日曜日は小説の更新を休んでいる所でしょうか。 一週間に一日くらいは、連載している小説について考えないことが、逆にモチベーションに繋がったりします。 とかいいつつ、日曜日に書き溜めたりもするんですけどね。 そして文章は相変わらず酷いんですけどね…

「味噌舐め星人の放浪」

仕事をしなくなってからというもの、有り余る時間の使い方に困り果てた俺は、本を読むでもなく、テレビを見るでもなく、ギャンブルにのめりこむ訳でもなければ、ただ住んでいる街を徘徊することに精を出していた。昼間から良い大人が街をぶらぶらと彷徨って…

「僕の不幸せな青少年時代 その三十一」

そうして、詩瑠は無事に試験に合格した。大学検定機構からの合格通知は彼女が死んだ次の日に、僕の家のポストに放り込まれていた。もう少し、あと少し、この通知が来るのが早かったなら、もう一日、あと一日、彼女は生きられたのではないだろうか。そういう…

「僕の不幸せな青少年時代 その三十」

「妊娠が進むにつれて私の中で色々な不安が広がっていったわ。この子の事をどう両親に納得して貰えばいいのか。両親の眼を誤魔化すために一人暮らしするにしても、生活費をどうすれば良いのか。こんな孕み腹で仕事なんてできるのか。そもそも、大学にだって…

「僕の不幸せな青少年時代 その二十九」

「一カ月会わなかっただけで、彼は変わり果てていた。肉付きが良く、少し垂れ気味だったその頬は、引き締まるを通り越してこけていたわ。腕なんかは三割増し太くなっていた。服装なんかも、とても一流大学に合格した人間とは思えない格好で。ぼさぼさの寝癖…

「僕の不幸せな青少年時代 その二十八」

孕んだことを、運悪くと、彼女は言った。まるで、自分が犯されたことはどうでも良いとばかりに。それがなんだか引っ掛かって。そんな目にあったにしては、彼女があっけらかんとしているのが、なんだか妙に腑に落ちなくて、僕は思わず首を傾げた。彼女はそん…

「僕の不幸せな青少年時代 その二十七」

詩瑠をテーブルに座らせると、僕は彼女に食べたい物を聞いた。彼女は少しだけ悩んで、じゃぁ、うどんが良いわと笑って答えた。できればきつねうどんが良いわと付け加えた所まで聞き届けると、僕は食券コーナーに向かった。幸いな事に、詩瑠のご所望のきつね…

今週のお題「心に残った本」

C言語によるプログラミングという参考書ですかね。 教科書として買ったものでしたが、授業が終わった後もこれを電車の中で何度も読んで勉強したものです。 小説とかはメジャー所だと、「ねじまき鳥クロニクル」と「コインロッカー・ベイビーズ」とかは面白…

「僕の不幸せな青少年時代 その二十七」

教室の前に戻ると多くの受験生が部屋から出てくる所だった。流れにあえて逆らって、僕は部屋の中に入ると、詩瑠の座っている机を探した。病気に伴う長い入院生活により体力的に衰えている詩瑠は、図書館での俺の様に力なく机に突っ伏していた。筆箱にペンも…

「僕の不幸せな青少年時代 その二十六」

詩瑠と逢瀬さんは同じ講義室に入った。高校を卒業したはずの逢瀬さんが大学入学資格を得る試験を受けていることに、僕はまた衝撃を受けた。彼女の身に何があったのだろうか。確かに、彼女が大学受験に失敗したという話は聞いている。けれども、高校まで卒業…

「僕の不幸せな青少年時代 その二十六」

まさか、と、思ったが、間違いなくその妊婦は彼女だった。僕の家に泊めて以来、会う事のなかった、受験に失敗したという、あの村上春樹が好きな少女、逢瀬陽菜だった。どうして彼女が妊婦になっているのか。僕は彼女とそういう事をした覚えはなかった。彼女…

「僕の不幸せな青少年時代 その二十五」

「お兄ちゃん、私ね、大学検定を受けようと思うの」 僕が詩瑠の部屋の花瓶に花をいけている時だ。彼女は突然に僕にそんな事を言った。無知な僕は、彼女が何を言っているのかさっぱりわからず、いったいそれは何かとすぐに尋ねていた。すると、知らないのも無…

「僕の不幸せな青少年時代 その二十四」

夏休みに入っても僕の大学生活はなんら変わることはなかった。遊ぶ相手もおらず、参加するイベントも見つからず、バイトもせず、日がな一日家の中でパソコンに向かって、顔の見えない相手と中身のない会話を繰り返す。そして、一週間の終わりに思い出したか…

「僕の不幸せな青少年時代 その二十四」

大学生になった僕を待っていた生活は、世間一般的な浮かれたものではなかった。同学年の人たちと上手くなじむことのできなかった僕は、夏休みまでの期間を誰とも喋ることなく過ごした。いや、何人かとは事務的な話はしただろうが、所謂世間話という奴をまっ…

今週のお題「桜」

就職で京都に越してきたので、花見がてら桜の名所でも周りたいなぁ。 あとは、桜餅とかも食べたい。

「僕の不幸せな青少年時代 その二十三」

僕と彼女は場所を移動した。静かな場所というのがよく分からなくて、夜の街を彷徨った挙句、僕達は川沿いにある公園のベンチに落ち着いた。来る途中で買った缶コーヒーを飲みながら、僕たちは肩を寄せ合って夜空を見上げる。ねぇ、と、彼女が言ったきり黙っ…

「僕の不幸せな青少年時代 その二十二」

彼女は決して美人という部類の人間ではなかった。それを補って頭がいいようにも決して見えなかった。つまり、遊ぶつもりで彼女を誘ったのだとしたら、その男の趣味が僕にはよく分からなかった。彼女の方から積極的に相手にアプローチをかけたのかもしれない…

「僕の不幸せな青少年時代 その二十二」

コンパへの参加は初めてであり、最初どうして良いのか戸惑ったが、とりあえず席に着くことはできた。一応、成人前の子がメインとなる会だったので、お酒の類がおおっぴらに出ることはなかったが、二浪している人間の何人かはそれとなくビールやカクテルを頼…

「僕の不幸せな青少年時代 その二十一」

三月に入ってからというもの、大学に向けの準備でとたんに忙しくなり、僕はめっきり時間の感覚というものを見失っていた。それでも、毎晩詩瑠には会いに行っていたが、来るのが遅いと何度となく叱られた。僕が大学に進学してからと言うもの、何故か調子を取…

「僕の不幸せな青少年時代 その二十」

彼女との約束を律儀に守った僕は、工学部の学科を受験する資格も得ていた。受験直前になって、僕は改めて経済学部志望で良いのかという気持ちにさいなまれた。文系学科よりも、理系学科の方が就職が良いとは聞く。しかしながら、緻密な計算だとか、ハードな…

「僕の不幸せな青少年時代 その十九」

僕と彼女はそれっきり会うことはなかった。未だ惨劇の余韻冷めやらぬ予備校では、結局センター試験前日も自宅自習となり、更にセンター試験明けから一週間しても、営業を再開することはできなかった。今回の事件を重く見た講師の何人かが予備校を止め、授業…

今週のお題この春始めたいこと

いいかげんpixivで書いてた小説をまとめて電子書籍にしたいですね。 推敲に加えて著作権的にヤバそうな表現の変更とかやらなくちゃと、未だ放置中なんですよ。 ちょっとずつ処理したいけど、うぅん、時間が。。。

「僕の不幸せな青少年時代 その十八」

それが悪い夢だと気付いたのは、コロ太に吼えたてられて布団から飛び起きた時だった。いったいどうやって僕の部屋に侵入したのか、容赦なく僕の耳元で吼えた白い大きな犬は、なぜだかご機嫌な様子で、朝の余韻だとか悪夢の余韻に浸る暇もなく、起き抜けの僕…

「僕の不幸せな青少年時代 その十七」

僕が壁の方を向いて暫くしてからだ、背中の方向で何かが軋む音がした。くたびれた扉の蝶番があげるようなそんな音だった。誰かが僕の部屋に入ってきた。誰だろうかと気になったが、僕は後ろを振り返らなかった。この家に居るのは僕と隣の部屋に眠る彼女だけ…