「僕の不幸せな青少年時代 その二十二」


 コンパへの参加は初めてであり、最初どうして良いのか戸惑ったが、とりあえず席に着くことはできた。一応、成人前の子がメインとなる会だったので、お酒の類がおおっぴらに出ることはなかったが、二浪している人間の何人かはそれとなくビールやカクテルを頼んでいた。何人かは、女の子に無理にお酒を飲まそうとしている人間も居た。女の子の方の年齢は知らない。注意するべき所だろうが、皆大学合格に浮かれているのか。それとも単に面倒くさいのか、注意するものは居なかった。とにかく、そんなこんなで、コンパが終わる頃にはいつの間にやら、二次会に行く者と、寄った女の子を家まで送る者とに二分されていて、コンパの中に彼女の姿を見つけられなかった僕は、必然二次会のメンバーとして、カラオケボックスに向った。
 そう、彼女はコンパに来ていなかった。そも、誘われても居なかったのだと、僕はその時初めて知った。彼女はセンター試験には合格したものの、その次の二次試験を中々通ることが出来ず、現在も追加募集の試験に向けて勉強中なのだという。まさか彼女が大学受験に失敗するとは思っていなかった僕は、それはもう驚いた。よほど、偏差値の高い大学を目指したのかなと、そのことを聞かせてくれた学生に聞くと、さぁ、それはお前の方が詳しいんじゃないの、と、半笑いで返された。どうやら、あの予備校に通っていた人たちの間では、既に僕と彼女はできているという認識になっていたらしい。彼女の名誉の為に、けっしてそんなことはないよと、僕が弁明すると、またまた、そんな恥ずかしがっちゃってと、皆、僕の言葉を否定した。あれでもし付き合ってないっていうなら、どうなるっていうんだよ。ちくしょう、羨ましい奴等だね。けど、これからどうするんだ、二人とも大学は違うんだろう。次々に僕に浴びせかけられる質問の言葉。途中までは、彼女とはそういう関係ではないという事を強調しつつ相手をしていたが、なんだか途端に相手をするのが面倒くさくなって、僕はトイレで吐くふりをして、二次会会場のカラオケボックスから、こっそりと抜け出して、家へと帰った。
 その帰り道だ、僕は道端で蹲っている女の子を見つけた。どこかで見た事のある顔だなと思うと、僕が通っていた予備校の生徒の一人で、先程コンパで一緒だった女の子だった。そこはかとなく、お酒の臭いがする。僕の記憶が正しいならば。彼女はまだ現役の高校生だったと思うのだけれど。そして先ほどのコンパで、背の高い好青年な学生に連れられて、家まで送られたと思ったのだけれど。頬の丸みが少し強い女の子の顔がこちらを向く。僕の視線に気づいたのだろう。何も挨拶しないのも失礼かと思って、僕は、やぁ、と彼女に言葉をかけた。すると、彼女は僕のことなど無視するように、再び蹲ると、ぽたぽたと口から白い吐瀉物を吐いた。どうやら、相当飲まされたみたいだ。飲みやすいからとカクテルを薦めている馬鹿が多かったが、飲みやすさに釣られてついつい飲み過ぎたのだろう。まったく、しょうのない。
「大丈夫かい? 何か飲むものでも買ってこようか?」
「いい、彼が、買ってきて、くれてる、はずだから」
 彼と言うのは、彼女を連れて帰った、さわやかイケメン君のことだろう。