2011-03-01から1ヶ月間の記事一覧

「僕の不幸せな青少年時代 その十六」

僕はその晩、なかなか眠ることができなかった。それは近づいてきたセンター試験に対する恐怖によるものでもなければ、隣の部屋に寝ている彼女の存在を意識して興奮したからでもなかった。冴える目玉は暗闇に満ちた部屋の中をしっかりと見渡せて、部屋の輪郭…

「僕の不幸せな青少年時代 その十五」

近所にある駅の欠点を一つだけあげるとするならば、遮断機が下りてしまうと向かいのホームへ向かう手段が皆無だという事だ。歩道橋や地下道なんて有りはしない。それはそうだろう、ど田舎の無人駅と大差ない駅なのだ。 そんな駅だから、僕たちが少し話し込ん…

「僕の不幸せな青少年時代 その十四」

ごめんなさい、と、彼女は言った。彼女が謝るだなんて想像もできなかった僕は、最初彼女以外の声かと思ってしまった。けれども、辺りを見回してみれば、ここは人気のない田んぼの真ん中で、彼女以外に声を発することができるのは、僕くらいだった。僕と彼女…

「僕の不幸せな青少年時代 その十三」

彼女が無駄な事を嫌う性格だというのは、なんとなくここ数週間付き合ってみて分かっていた。なので、僕の申し出が無下に断られるであろうということは、僕としても予想していたし、その後の言葉も想定してあった。 「実はさ、ちょっと駅の方まで僕も用事があ…

「僕の不幸せな青少年時代 その十二」

コーヒーを飲み終えた僕と彼女は、カップを台所に運ぶと明後日の試験に向けての勉強を開始した。予備校から出てくる時に配布された、予想問題集を開くと、目覚まし時計のアラーム時刻をセットする。それじゃぁ、二時から開始という事でと陽菜に言うと、構わ…

「僕の不幸せな青少年時代 その十一」

彼女との関係は奇妙な物だった。それは、僕と高校時代に軽い肉体的接触を行っていたマサコとの関係とも違った。マサコが肉体という機能を用いて僕という存在を知覚、あるいは僕との意思疎通を計ろうとしたのに対して、彼女は純然に対話による僕との交渉を求…

度々、すみません

ちょっと今日も味噌舐め星人の方は更新できないです。明日まとめて更新いたします。 申し訳ありません。

「僕の不幸せな青少年時代 その十」

彼女と一緒に帰るようになってから三日後、僕は彼女にキスを迫った。なんてことはない、軽い子供がするようなフレンチキスだ。いつもの通りで、いつもの別れ際に、彼女がじゃあねと一歩前に出た所を捕まえて、腰に手をまわして、僕は彼女の瞳を見つめた。な…

筆者、引越し作業多忙につき、本日は味噌舐め星人の連載を休みます。

申し訳ないです。日曜日に追加で書きますので、それで許してください。

「僕の不幸せな青少年時代 その九」

その日から、僕と彼女はよく話をした。予備校の休み時間や、終了後の帰宅時に、それとなく集まっては世間話や昨日見たドラマの話だとか、とりとめのない話をした。近づいてくるセンター試験を避ける様に、勉強の話はあまりしなかった。話すうちに、彼女につ…

「僕の不幸せな青少年時代 その八」

丁度、一限目の終了のチャイムが鳴っていた。ぞろぞろと教室から出てくる人の波を逆流し、人と人の間をすり抜けて、僕は自分の教室へと入った。すると、僕のいつも座っている席の一つ後ろに、例の村上春樹に関して話しかけてくる彼女の姿を見つけた。たまた…

「僕の不幸せな青少年時代 その七」

結局、僕は夜通しノルウェイの森を読みふけった。相変わらずストーリーの根底に流れる作者の意思を汲み取ることや、人が感じてしかるべき強烈な感動を抱くことは、愚かな僕にはできなかった。しかしTVピープルと比べると、村上春樹という作家の物語りを楽…

今週のお題東北地方太平洋沖地震

連日の被災地の報道を見るとなんともやりきれない思いになります。 天災ばかりは人の力ではどうしようもないとはいえ、あまりに今回の事件は痛々しい。 被災地の方々はほんとうに災難でした。 一日も早く、元の生活に戻れるよう、祈っております。 また、被…

「僕の不幸せな青少年時代 その六」

自分で聞いておいてなんだが、それはとても意外な返答だった。あまり小説だとか、映画だとかを見ている姿を見たことない父だから、きっと読んでいることはないだろうと、思っていたのだ。赤信号で止まった拍子に、どうしたそんな驚いた顔をして、父が僕の顔…

「僕の不幸せな青少年時代 その五」

ノルウェイの森を借りてきたその日の夜に、僕は父さんと詩瑠の病室で鉢合わせた。その時、僕は咳の酷い詩瑠の背中をさすって、彼女が寝付くのを待っていた。父が入ってくる頃には、薬が効いてきたのか、咳は収まり、詩瑠は静かな寝息を立てて、彼女は眠り始…

「僕の不幸せな青少年時代 その四」

僕は赤い村上春樹短編集を借りて予備校に戻った。戻ると丁度授業開始のアナウンスが鳴って、その日は結局、借りてきたその本を一ページも読むことはできなかった。次の日の朝に、僕は一時間ほど早く予備校に登校し、誰も居ない教室で初めてその本を読むこと…

「僕の不幸せな青少年時代 その三」

予備校の待ち時間は僕にとって退屈な物でしかなかった。同い年の友達も周りにおらず、年下の現役受験生と、年上の情けない浪人生のどちらにもなじむことが出来なかった僕は、休憩時間の多くを小説を読んで過ごした。そんな物を読んでいる暇があったら、単語…

「僕の不幸せな青少年時代 その二」

父や母の助力もあって、子役として確実に成長している観鈴は、滅多に家に帰ってくる事もなくなった。それでも、地元に帰ってくれば、必ず詩瑠の 病室には顔を出した。今日もまた、地元で撮影があった観鈴は、日もすっかり沈んだ頃に、詩瑠の病室にひょっこり…

「僕の不幸せな青少年時代 その一」

高校時代にろくに勉強なんてしてこなかった僕が、一念発起して医者を目指したところで、結果なんてものは目に見えていた。一度きりの人生だからと、高みを目指して一年間みっちりと勉強した僕だったが、医学部合格というのは、高いハードルを飛び越えるなん…

今週のお題「ブログと私」

小説書くのをさぼらない為のツールですね。 人に公開する事でクオリティを高める人も居れば、生産性を上げる人も居る。 こういう使い方をしても良いんじゃないでしょうか。

「醤油呑み星人の心配」

家に帰るとリビングで寝ている雅を確認して、俺はキッチンに入った。夕食にパスタを作ることにした俺は、鍋でお湯を沸かし沸騰した所を見計らって塩を一匙放り込むと、買ってきたばかりのスパゲティの麺を中に入れた。スパゲティは味噌舐め星人がやってくる…

「醤油呑み星人のメール」

チャンネルを変えてもこの気持ちはどうにもなりそうになかった。俺はテレビの電源を切ると、項垂れて、小さくため息を吐いた。手を置いている、雅の頭が軽く動く。起きたのだろうか、しかし、その目は開いていない。俺が今、どういう精神状態にあるのか分か…

「大園美鈴の活躍」

完全に眠りこけていた。額に沸いていた重たく脂っぽい汗を拭い去ると、俺はベッドの上で体を起こした。嫌な夢だった、不快な夢だった。他人にしてみれば、どうということはない夢かもしれないが、俺にとってはこの上ない悪夢だった。ふと瞼の縁をなぞってみ…

「大園観鈴のお兄ちゃんは鼻にちり紙を詰める」

リビングに戻ると、テーブルに置かれているティッシュ箱に手を伸ばす。乱雑に引き抜いた数枚で鼻の下を拭うと、同じように引き抜いたティッシュを使って鼻頭を押さえる。そうして乱暴に止血している内に、ティッシュを棒状にまとめると、素早く鼻を押さえて…

「砂糖女史は俺の頭を鍋で殴りつける」

手に持っているのは鍋。俺が雅の体を散々に殴りつけたあの鍋だ。あんな鍋で殴られたくらいで、よろめいたのか。いや、打ち所が悪かったのか。俺の上に馬乗りになると、肩に担ぐようにして鍋を持った雅は、一呼吸おいて俺の顔面に向かってそれを振り下ろした…

「醤油呑み星人の約束」

携帯電話をかざし合って、アドレスを交換すると俺は醤油呑み星人と分かれた。じゃぁな、と、俺が彼女に背を向ければ、絶対に連絡しなさいよと、彼女にしては、しおらしい声で俺に言った。あぁ、連絡するさ、と、言いながら、内心、恐らく俺から連絡すること…

今週のお題「iPad 2欲しいですか?」

欲しいですね。電子書籍を読む端末として。 色んなところ(こことかpixiv)で書いてる小説をまとめて、その内電子書籍にしたいので。 実機での読みやすさみたいなのを確かめてみたいです。 あとは、スモールワールドっていうボードゲームが遊べるので、そい…

「醤油呑み星人の再開」

「ねぇ、ちょっと、聞いてるの? というか、大丈夫なの? なんだか、顔色が悪いわ。疲れてるみたいだけど。もしかして、風邪でも引いてるの」 「……大丈夫だ。風邪もひいてないし、気分も悪くない。ちょっと、意外な人物が意外な格好をして現れたから、驚いた…

「味噌舐め星人の買い物」

スーパーに入ると真っ先にパンコーナーに向かう。店の中で焼いているようなパンが並んでいる、パンコーナーではない。袋詰めの菓子パンの並んでいるコーナーだ。黄色だとか青といった、茶色のパンに映える色合いのパッケージが並んでいるコーナーの一角には…

「味噌舐め星人の惰性」

コンビニから出ると、俺はもう特に寄り道もせずに駅へと向かった。電車の時間を確認する。到着時刻にはまだ時間があったので、俺は買ったジャンプを開いてベンチに腰かけた。午前ともなれば、通勤通学の時間を過ぎてしまえば、田舎の駅だ人は少なくなる。が…