「味噌舐め星人の惰性」


 コンビニから出ると、俺はもう特に寄り道もせずに駅へと向かった。電車の時間を確認する。到着時刻にはまだ時間があったので、俺は買ったジャンプを開いてベンチに腰かけた。午前ともなれば、通勤通学の時間を過ぎてしまえば、田舎の駅だ人は少なくなる。がら空きのベンチに腰かけると、喫煙コーナーでもないのに、俺は煙草を吹かした。毎度思うのだけれど、どうしてこうも喫煙者に対する風当りという奴は厳しいのだろうか。喫煙コーナーにもベンチくらい用意してくれたっていいだろう。煙草を吸うってだけで扱いが軽い。吸う事が悪とでも言いたいのだろうか。はっ、個人の趣味なんだから好きにさせろってんだ。喫煙者はマナーが悪い。馬鹿を言うな、だったらそこに転がっている缶コーヒーの空き瓶も、喫煙者が捨てて行ったっていうのか。そうじゃないだろう。吸い殻入れを持ち歩く喫煙者だって居るんだぞ。偏見に基づいたイメージで、こんな不当な扱いを喫煙者は受けている。そんなことが、この法治国家日本でまかり通って良いのだろうか。まぁ、俺の様な男一人が言った所で変わらない。いつの間にか、この国は非喫煙者達によって掌握されてしまったのだ。そんな事を思いながら、俺は足元に置かれている空の缶を拾い上げると、その中に煙草の灰を落とした。とても残念というか申し訳ない事に、今日はたまたま携帯灰皿を持っていなかった。
 電車到着のアナウンスが鳴ったので、タバコを空き缶の中に押し込んで、俺はゴミ箱が設置されている売店前に移動した。空き缶をゴミ箱に放り込んで、ジャンプをゴミ箱に放り込むと、俺は反転して線路の方を向いた。
 電車は随分空いていたが、たかだか一駅の為に座る気にもなれずに、俺は入り口の前に立ってぼうっと外を見ていた。二年で景観が特にこれといって変わることもなく、相変わらずな街並みを見つめて居るうちに、いつの間にか我が家の近くの駅へと電車は着いていた。せっかく電車に乗ったのだ、このまま、何処か遠くへ出てみるのも良いかもしれない。どうせすることもないのだから。かといって、どこか行きたい所がある訳でもない。電車を降りて、改札で待ち構えていた駅員に切符を手渡すと、俺は駅を出た。
 そう言えば、昼飯の用意を何もしていなかったな。自宅へと帰るついでにスーパーによることにしようか。雅は、大人っぽい容姿に反して、料理や洗濯といった家事の一切ができない。いや、できるにはできるのだが、少し複雑な料理を作らせると、色々と問題を起こすのだ。前に、俺と彼女がまともな同棲をしていた頃に、一度料理を作らせて、キッチンを焦がさせた事がある。いや、それくらいなら、味噌舐め星人もやらかしたのだが、彼女に料理をさせた時よりも、その度合いが酷かったのだ。フライパンなどは、もう柄の所まで溶けてしまい、とても掴むことができないような、そんな有様だった言えば、分かってもらえるだろう。以来、彼女に料理を教えれる人間もおらず、味噌汁だとか、トーストだとか、そういう簡単な料理を除いて、他は俺が作るくようにしているのだ。そう、彼女と、今の様な、酷い関係になっても、それは変わらなかった。仕方ないのだ、世の中と人間には、変えようにも変えられない、ままならない部分というのが、あるのだから。