「味噌舐め星人の買い物」


 スーパーに入ると真っ先にパンコーナーに向かう。店の中で焼いているようなパンが並んでいる、パンコーナーではない。袋詰めの菓子パンの並んでいるコーナーだ。黄色だとか青といった、茶色のパンに映える色合いのパッケージが並んでいるコーナーの一角には、一つ背の低い棚があり。そこには赤色のラベルが張り付けられた、所謂おつとめ品が陳列されているのだ。失業中の身である俺と雅にとって、おつとめ品は心強い存在だった。何度これの世話になったことだろうか。パック詰めの寿司から、コーヒーの粉末。野菜や肉に、ちょっとした雑貨に至るまで、随分と買わせてもらっている。
 パンのお勤め品と言う奴はこれで以外と頼りになる。食パンなんかは冷凍して保存すればそこそこ日持ちがするのだ。菓子パンに関しては、まぁ、甘い物は大丈夫。卵やマヨネーズ、ハムなんかが入っていると、買ったその日に食べたい物だが、まぁ、多少日が過ぎても、腹を下したり嘔吐する様な経験は数えるほどもなかった。ただまぁ、今までよっぽどいい物を食べてきたのか、ジャンキーな物を食べるとすぐに調子を悪くする、繊細な雅に関しては別だったが。とにかく、食パンなどがあれば、数日分の食事が楽になる訳で、俺としては是非にでも、六つ切りの食パンや六個入りのロールパンなんかを手に入れたい所だった。半額にでもなっていてくれれば、大助かりなのだが、三割引きでも構わなかった。少しでも安いに越したことはない。
 俺の予想と願い通り、おつとめ品コーナーには、幾つかのパンが並んでいた。どちらかと言えば、今日は総菜パンが多く、どれも時間的に限界なのだろうか、半額のシールが張られていた。残念ながら、食パンやロールパンは並んでいない。これでは食事は少しも楽にならないが、まぁ、今日の昼飯くらいにはなるだろう。ただ、雅の食べれる総菜パンは決まってくるが。俺は山積みになった総菜パンをかき分けて、目当てのパンを探した。すると、俺の鉱物である、メンチカツを挟んだパンと、雅が唯一食べることのできる、耳なし食パンによる卵サラダの総菜パンを発見した。まぁ、この二つでもあれば、昼飯としては事足りる。飲み物として、確か、コーンスープがあったはずだ。俺は、台所の引きだしの中身を想像して、一人頷くと、おつとめ品コーナーに背を向けてレジへと向かおうとした。その時だった。
 あれ、もしかして、貴方。と、誰かが囁いた。もし顔を合わせていなければ、その言葉が俺にかけられているだなんて、気付きもしなかっただろう。御園くん、よね。と、俺の名を読んだ彼女は、ショートヘアーの良く似合った、黒い縁眼鏡をした妊婦だった。押し車に子供を載せている、優しい顔をしたお母さんだった。誰だ、なんて、尋ねなくても、第六感で分かった。
「貴方、こんな所でなにしてるの。ちょっと、やだ、もう、久しぶりね。あれから、何も連絡してこないから、心配していたのよ。私も、あの人も」
 醤油呑み星人。だった。俺の昔の仕事の相棒にして、店長に恋をしていた異星人。そして、俺に味噌舐め星人について警告した女性。むかつく女。けれども、どうにも憎み切れない、妙な感情を抱いていた、そんな女は、立派な孕み腹をして、子供連れで、俺の前に二年ぶりに現れた。