「僕の不幸せな青少年時代 その十二」


 コーヒーを飲み終えた僕と彼女は、カップを台所に運ぶと明後日の試験に向けての勉強を開始した。予備校から出てくる時に配布された、予想問題集を開くと、目覚まし時計のアラーム時刻をセットする。それじゃぁ、二時から開始という事でと陽菜に言うと、構わないわと言って彼女は頷いた。
 連続で模擬試験を二つこなし、休憩がてら夕食にスーパーで買ってきた弁当を食べると、僕たちは再び模擬試験を再開する。彼女は理系、僕は文系。お互い、共通して受けなければならない科目、外国語と国語、数学二科目を今日はやることにしていた。これから二つ模擬試験を行うのかと思うと、うんざりとした気分になったが、やるべきことをやらずに落ちるのも嫌だ。
「ねぇ、ちょっといいかしら」
「手短にね、あと試験の内容についての質問は受け付けられないよ?」
「むしろそれは貴方が聞きたいんじゃないの。あのね、貴方、結局経済学部を受けることにしたのよね?」
 そうだよ、と、僕は彼女の問いに答え頷いた。前に大学名まで話したはずなのだけれど、忘れてしまったのか。いや、忘れたという感じではないか。何かを確認するような、そんな質問だ。しかし、何を確認したいんだ。
「ねぇ、今から志望学科を変える気にはなれない? うぅん、文系から理系にシフトするだけでもかまわないわ」
「いきなり何を言い出すんだよ。そりゃまぁ、変えようと思えば、変えられないことはないけれども。けど、今更理系の試験を受けたって、とても受かる気なんてしないけどね。時間の無駄だと思うよ」
 そう、と、彼女は残念そうに呟いて、それっきり時計のアラームが鳴るまで話しかけてくることはなかった。どうしてそんなことを彼女が急に言い出したのか、僕には今一つ彼女の真意を理解しかねた。
 模擬試験を終えて答え合わせをする。僕は半分も答えは合っていなかったが、彼女の方はほぼ満点に近い正解率となっていた。同じように勉強しているはずなのに、どうしてこんなに差が出るのかね。理解に苦しむよ、と、悔し紛れに茶化してやると、まだ、共通の教科じゃない、と、慰めの言葉を顔所は僕にかけてくれた。随分とまぁ、優しいことだ。
「……さっきの、志望学科のことだけどさ、まぁ、センター試験で余分に受けるくらいなら、別に構わないかなって。受けて、欲しい?」
 なんとなく、僕は彼女に尋ねていた。これでもし、彼女が受けて欲しいと僕に言ってくれたなら、僕は迷わずセンター試験の全科目を受けるだろう。そんな気持ちで、僕は彼女に言葉をかけた。
「いいわよ、そんなの。あれは、ちょっとした気の迷いだわ。忘れて」
 冷徹にそう言うと、彼女は忙しそうに机の上の荷物を片づける。そういえば、問題を解くのに精いっぱいですっかりと忘れていたが、そろそろ近くの駅に終電の電車が来る時間だ。そうのんびりもしていられない。
 駅まで送るよと僕が申し出ると、車が出るわけでもないんでしょ、じゃぁ時間の無駄だから別にいいわよ、と、僕の申し出をやんわり断った。