「僕の不幸せな青少年時代 その九」


 その日から、僕と彼女はよく話をした。予備校の休み時間や、終了後の帰宅時に、それとなく集まっては世間話や昨日見たドラマの話だとか、とりとめのない話をした。近づいてくるセンター試験を避ける様に、勉強の話はあまりしなかった。話すうちに、彼女について分かったことと言えば、彼女は僕より一つ年下だということ。現役の高校生で、高校の三学期は自宅で自主勉強ということになっているのだそうな。そう言えば、僕の通っていた高校も、一月に入って、一週間ほど授業をしてあとは自宅自習になったけか。その当時の僕は何をしていたっけか。とりあえず、彼女の様に自主的に予備校通いをするなんてことは、思ってもみなかったはずだ。まぁ、通っていながら男と談笑しているのだから、彼女もそこまで真面目という訳でもないか。
「ねぇ、貴方はどこの大学を狙ってるの? 地方の国立大を受けるつもりなの? それとも旧帝大? 有名私立、それとも、三流大学?」
 昼休み。人もまばらになっている講義室の中で、二人して同じ席に座り、惣菜パンを貪っていると、彼女が突然に僕に質問してきた。
「とりあえず国立を目指してる。家にはあまりお金がないからね。私立なんて行くくらいなら、働いた方が良いよ。働けるかは分からないけど」
「どこも大変ね。私も、私立に行かす金はないって、親に言われてる。けどね、おかしな話でね、滑り止めで受けとけって言うのよ。受験料だって馬鹿にならないっていうのに。それで国立落ちたらどうするつもりなのかしら」
 彼女は少し頬をむくれさせて、同意を求める様に僕に言った。僕はそうだねと、返事をしたけれども、彼女の親の気持ちもなんとなく分かった。恐らく、彼女が国立大を落ちれば、彼女の親は私立大学に行かせるだろう。彼女がもし、旧帝大を目指しているのならば、一浪させる価値もあるだろう。しかしながら、一浪して地方の国立大に入るくらいなら、名のある私立大学に入れてやった方が良い。浪人して入ってくる学生も何人かは居るには居るだろうが、基本は同じ年齢の人間が集まっているものだ。その中で変に孤立させるのも酷な話だ。と、まぁ、孤立する不安を抱えている僕としては思う。
「だから、ね、私立の受験では手を抜くつもりよ。行けもしないのに、真剣に試験を受けるなんて、ナンセンスな話じゃない、そんなの」
「それはそうかもしれないけれど。そこは、本番の練習だと思って、頑張っておいても損はないと思うよ」
「そうね、そういう風にも考えられるわね。じゃぁ、頑張ろうかしら」
 なんとか彼女の馬鹿な考えを改めさせることに成功した僕は、彼女に悟られぬように溜息を吐いた。妙な事を言って、彼女の人生をみすみすふいにしたくはない。そこは素直に、真面目に、受験しておけばいいんだよ。僕なんて、受けるお金すらないのだから。受けれるだけでも儲け物じゃないか。
「そう言えば、学部はどうするつもりなの? 理系、それとも文系?」
「そうね、どっちかっていうと、理系の方に適性があるらしいから、工学部を目指してるわ。文学部にも、興味はあるんだけれどもね。貴方は?」
「僕は、そうだね、今の所、経済学部、かな?」