「醤油呑み星人の心配」


 家に帰るとリビングで寝ている雅を確認して、俺はキッチンに入った。夕食にパスタを作ることにした俺は、鍋でお湯を沸かし沸騰した所を見計らって塩を一匙放り込むと、買ってきたばかりのスパゲティの麺を中に入れた。スパゲティは味噌舐め星人がやってくる前に嫌という程作った経験がある。だいたいコツが分かっているので、傍目に茹でても大丈夫だろう。俺は鍋から少し目を離すと、今日買ってきた野菜をいくつか冷蔵庫から取り出して、まな板の上に並べた。トマトに水菜。ベーコンはないが、ハムは前に買っておいたのがあった。オリーブオイルをフライパンに垂らし、ざく切りにした水菜と、半分に切ったトマトを放り込む。短冊切りにしたハムをさらにそこに放り込んで炒めると、そろそろかなと鍋の方を見る。一本スパゲティを箸ですくいあげて口に運べば、少し食べるのには固いくらいだった。フライパンで炒めるのならこれくらいの固さが良い。炒めている内に、野菜の水分やらオリーブオイルやらを吸って柔らかくなる。鍋をかけているコンロの火を止めると、キッチン下の収納棚からざるを取り出す。そこに鍋の中身をぶちまけ、素早くお湯を着ると、麺と麺がくっつかないうちに、俺はそれをフライパンの中へと放り込んだ。塩を振りかけ、ドライガーリックを振りかけると輪切り唐辛子を振り入れる。最後にオイルサーディンの缶を開けると、いわし一尾とオイルを半分ほど中に流し入れる。いわしを容赦なく砕いて、麺と絡めると白い皿を棚から取り出してその上に盛り付けた。適当な味付けのペペロンチーノだ。まぁ、食えない味ということはないだろう。
 テレビを点けると、また見たくもない物を見てしまいそうで、俺は暗い窓の外を見ながら皿の上のスパゲティをすすった。三口ほど食べて、俺はトマトをフォークで刺しながら、あまりの退屈さにため息を吐いた。テレビを見ない、会話をしない食事と言うのは、あまりに味気ない。かといって、寝ている雅を無理やり起こすのも気が引けたし、テレビを点けるのも一度決めた手前やりたくなかった。どうしたものだろうかと、手持無沙汰に皿をつつけば、そういえば醤油呑み星人からメールが来ていたのを思い出した。いや、それが醤油呑み星人のメールかどうか、確証はなかったが、とにかく、メールを着信しているのは確かだ。あの時は、色々あって無視したが、一応、見て返事をしてやった方が良いかもしれない。俺は、フォークをスパゲティの皿の上に置いて、ズボンのポケットに手を入れて、携帯電話を取り出した。
 携帯の液晶を確認すると、やはり醤油呑み星人だった。どうせ、なんで連絡してこないのだ、などという感じの文面だろうと思ったが、いざメールを開くと書いてあることは違った。今度、家に遊びに来ないか。店長も久しぶりに会いたいと言っている。都合のいい日があったら連絡頂戴。子供が出来て彼女も周りに気を使う余裕ができたのか。都合のいい日があったらだなんて、そんな、場合によっては一生都合のいい日なんて来ないってのに、相手に合わせた誘い方をするだなんて。やれやれ、女から母になるというのは素晴らしい事だ。あるいは、経年とは人を丸くさせるのだろうかね。
 さて、誘われたがどうしようか。正直、あまり乗り気のする話ではない。