「魔法少女風味ミリンちゃんのお兄ちゃんは悪夢を見る」


 分かりやすい悪夢を見た。B級ホラー映画の様な話だ。俺はどこか裏さびれた街の路地裏で酒を呑んでいて、気が付くと男たちに囲まれていた。目つきに生気のない不気味な奴等だ。すぐにそれがゾンビだとか、キョンシーだとか、人外の者であるという事には気が付いた。夢というのは実に都合よくできている、何の根拠もなくそうだと思いこめば、すぐに世界はその通りに染まりあがってくれるのだ。嘘が真実となり、真実が嘘になる。
 そのゾンビたちが俺に何をするのかと言えば、これまた分かりやすく、マイケルジャクソンのスリラーも顔負けな感じに、息ぴったりに集団で俺に襲い掛かってくるのだった。その時は、俺もそれが夢だとは気付いていなかったものだから、これはまずいなと思って、彼らから逃げた。ゾンビなんてのは足が遅いイメージが強いが、こいつらはなぜか俊敏に動いていたし、それなりに感覚はあるのか、無茶な襲い方をしてくることはなかった。隠して、裏道から脱出した俺は、大通りの中を彼らに見つからないように進み、あらかた撒いたと確信すると、また路地裏へと入って、持っていた酒を呑んだ。
 ふと、その路地裏で蹲っている者が居るのに俺は気が付いた。灰色のローブを被った小柄な女だ。女だと、断言できる要素はなかったが、布越しに見えるラインは明らかに男の者ではない。そして、ローブの切れ端から延びている長い髪の毛も、男の髪にしては細く、つややかな様に俺には見えた。
 こんな所で何をしているのか、と、俺は尋ねた。やはり、まだ、これが夢の中なのだと、俺は自覚していなかった。普段ならば、そろそろ、夢を見ていると気付いても良いはずなのだが、なぜだか、今日の俺は目が覚めるまで一度もそれが夢だと気が付かなかった。そんな状況の中で、彼女は何も言わずに俺の方を振り向くと、暫く俺を見て、それからまた元の様に顔を自分の足元に向けた。何がしたいのか、よく分からない。それは俺も同じか。
 彼女が何者なのか、唐突に俺は知りたくなった。なんだか、俺はそれを知らなくてはいけない気分になったのだ。これもまた、強引な夢の力だろう。
「なぁ、黙って居なくったって良いだろう。教えてくれないか」
「私は味噌を求めている者です。貴方を追いかけていた者たちの王です。私達の種族は、貴方達がいう所の、ゾンビやキョンシーなのですよ」
「なんだ今更、そんなことは知っているよ。言われなくても、ちゃんとね」
「私達は、何者かの死と共にそこに現れます。私達は、その死んだ人間を限りなく模倣することのできる種族なのです。その者の死をなかったことにして、生前の生活に溶け込む。カッコーの様な生態を持っているのです」
「だから、そんなことは知っていると言っているだろう。味噌舐め星人の王だかなんだか知らんが、そんな薀蓄、こっちはとっくに知ってるんだ」
「では、私達の仲間の知性と理性が、それなりだというのは」
「もちろん、知っているさ。とんでもないのを傍で見ていたからな」
 しかしながら、アレは特殊なケースです。あれは、味噌舐め星人にしては特別優しすぎる生き物でした。それは、貴方の知っていることですか。
「知らんよ、そんなことは。どこにもそんな文献はなかったからな」