「僕の甘味の少ない幸せな青春その十五」


 犬が忠義を忘れないというのに、すっかりと今の温まぬの様な生活に慣れてしまった僕は、ついに味噌舐め星人と一緒の部屋に居ることに、なんの違和感も覚えなくなっていた。一緒にテレビも見るし、一緒にゲームもする。おかしなことがあれば一緒に笑い、腹の立つことがあれば喧嘩をする。まるで本当の兄妹の様に、僕と味噌舐め星人は意気投合していた。
 何故こんなに馬が合うのかといえば、単純に性格の問題だろう。何だかんだと言って、僕は世話のかかる妹というのが好きだったし、味噌舐め星人もまた俺の事を何かと必要としてくれたからだ。僕は味噌舐め星人の様な存在を求めていたし、彼女も僕の様な存在が必要だったのだ。今になって分かったことだが、何だかんだで僕は、詩瑠の世話をするのが好きだった。彼女が小学生の時分に、公園まで迎えに行っていたのも、病気になった彼女を毎日見舞っていたのもまた、ただ彼女が可哀想だったからではない、そうしてやることに、僕はある種の優越感の様な物を感じていたのだと思う。それはまた、詩瑠にも言えることなのだろう、彼女も僕の事を、親や友達以上によく頼ってきた。病気になる直前ともなれば、流石に自立して、むやみやたらと俺を頼るようなことはなくなったが、それでも何かにつけて僕に助言を求めてくることが多かった。例えばそうだ、ラブレターを貰ったんだけれど、どうしたらいいか、なんて相談も受けたっけか。その質問を受けた時は、流石に僕もどうアドバイスをしていいものか、すぐに言葉が出てこなかったが。
 そう、最初に彼女に病気の事を打ち明けられたのも、今になって思えば僕だった。頼り頼られ、助け助けられ。僕たち兄妹は、素敵な共存関係を築いていたのだと思う。そして、その片割れが居なくなっても、その関係を僕は求めてしまったのだ。共存関係になかった、父と母でさえ耐えられなかったのだ、僕が耐えられるはずもない。本当に、上手く人の懐に潜り込んだよ、この目の前で無邪気に笑っている女は。そんな知恵があるようには、少しも見えないって言うのに。いや、だからこそ、入り込めるのかもしれない。
「ねぇお兄さんお兄さん。今日はミーちゃんテレビに出ませんね。どうしたんですかね。いっつもお家に居ないのに、夜遅くに帰ってくるのに」
「何が言いたいんだよ。世の中なんてそんなもんだよ。一生懸命頑張ってる奴に限って、日の目を見ないようになってんの」
「冷たいです。それでもお兄さんはミーちゃんのお兄さんなんですか。もっとミーちゃんは人気者になっていいと思います。なるべきですよ」
 この偽物の妹は、とりわけ、小さな妹の事が気に入っていた。詩瑠もたいがい観鈴の事を可愛がっていたが、こいつの可愛がり方は少し異常だ。ただでさえ、赤の他人だって言うのに、どうしてここまで気にかけれるのか。
「今度お家に帰ってきたら、いっぱい良い子良い子してあげなくちゃです。ねぇ、お兄さん。私達だけは、ミーちゃんの味方ですよね」
「世間様の殆どが観鈴の味方だよ。その言いぐさだと、なんだか観鈴が犯罪者化何かみたいじゃないか。少しは言い方ってもんを考えろよ」
 まぁ、けど、良い子良い子してやるってのは、悪い話ではないな。