「僕の幸せな幸せな子供時代、そのにじゅうに」


「最近凄いよね、ミーちゃんの人気。今度、ドラマもアニメも飛ばして映画撮るって言ってたし。お姉ちゃんとして、私も鼻が高いよ」
「鼻を高くしてどうするのさ、自分は自分、観鈴観鈴だろう、詩瑠」
 それはそうだけど、けど、それくらい嬉しいのよ、と、詩瑠は笑顔で僕に言った。やりたくもない仕事を無理にやらされている、観鈴の辛さも知らないで、呑気な物だとも思ったが、その呑気さが詩瑠の良い所でもある。
 観鈴の出ているCMが終わると、僕は机から立ち上がった。お部屋に行くのと詩瑠がこっちも見ずに僕に尋ねる。あぁ、あんまり夜更かしするなよと詩瑠に言うと、僕はリビングから出て、二階の自室へと向かった。最近は詩瑠も年頃の娘らしく、夜遅くまでドラマやらバラエティ番組やら見るようになった。その頃には、僕はテレビを見ているよりも、ネットを見ている方が楽しめるようになっていたので、詩瑠の様にテレビにかじりつくようなことはなかったけれども、その年頃の子供がテレビが必要なのは、余り友達の少ない僕でもなんとなく分かるものがあった。学校での友人達との会話の話題に、テレビ番組は重要なのだ。もし番組を見ていなかったら、その間、黙っていなければいけないのだから。テレビだけでなく、漫画やゲーム。話題に限らず、この年頃の、寂しさに打ち勝てない年齢の子供たちが、お互い寄り集まって生きて行くためには、何か共有できるモノが必要なのだった。
 まぁ、ゲームセンターやライブ通いなんていう、金のかかる趣味に走らなくてよかったという所だろう。また、詩瑠が中学で彼氏の一つでも作って、どっぷりと依存する様なら、僕はもう気が気でなかっただろう。しかしながら僕の可愛い妹は、家族で一緒に居る時が一番と、彼氏なんて物を作ろうとはしなかった。告白も何度かされたらしいが、丁寧に断ったそうな。その度に、断ったことを僕に説明してくるのが、なんだか僕には可笑しくもあり、微笑ましくもあった。だってね、彼氏なんて作っちゃったら、私、お兄ちゃんやミーちゃんと一緒に居られなくなるわ。彼氏さんのことで頭一杯になって、お兄ちゃん達の事、相手していられないわ。自分に言い聞かせるように僕へと言う詩瑠。そんな彼女も、いつかお嫁に行く日がくるのだろうか。
 僕は自分の部屋に戻ると、最近になってまた再開した日課を行うべく、パソコンの電源を入れた。今年の初めに、お年玉やら日々のお小遣いやらを貯めたお金で、パソコンを新調した。どうにも御眼鏡にかなうスペックのパソコンがなかったので、僕はパソコン雑誌なるものを一冊買って、そこに載っていた自作パソコンの記事を参照して、パソコンを一台自分で組み立てた。メーカー製のパソコンと比べれば、随分と安く出来上がったように思う。性能もそこそこあり、3Dのネットゲームをするにしても、処理落ちすることなくスムーズに動いてくれた。まぁ、ゲームなんて滅多にすることもなく、もっぱらネットを徘徊しては動画を見るくらいしか使い道はなかったが。
 詩瑠がリビングでテレビを見るようになってから、隣の部屋に気を遣わなくて済むようになったのが救いだ。僕はティッシュペーパーから紙を二枚抜き取ると、マウスパッドの上に四つ折りにして置いた。