「僕の幸せな幸せな子供時代、そのじゅうろく」


 それから暫くして、観鈴は小さく定期的な寝息を立てながら眠り始めた。彼女が深く寝入っているのを確認した僕は、そっとベッドから出ると、先に自分の部屋と両親の寝室の扉を開けておいてから、彼女を抱えてゆっくりと部屋から出た。しんと静まり返った二階の廊下を横切り、両親の寝室の中に入れば、ふかふかとした大きいダブルベッドが目に入った。僕が幼稚園に通っていた頃に、父さんと母さんと一緒に寝ていたものだ。ダブルベッドだけれども、もう一人くらい子供程度なら一緒に寝ることができる。僕はその真ん中に可愛い可愛い眠り姫を降ろすと、布団を被せた。少しぐずるように寝顔を歪ませたので、僕は寝つきがよくなるようにと、観鈴の頭を優しく撫でる。すると、寝ぼけながらも撫でられたのが分かったのか、はたまた夢の中で何か良い事でもあったのか、彼女は嬉しそうに僕に微笑んだのだった。
 両親の寝室を後にすると、僕は自分の部屋に戻ってパソコンのモニターに電源を入れた。先ほど、観鈴が部屋を訪ねてきた時に、僕が見ていたサイトがそのままの状態で表示される。僕はすぐにパソコンの筐体の上に載っているティッシュペーパーから二枚程紙を抜き出すと、折りたたんでマウスパッドの上に置いた。そして、寝間着のズボンをずり降ろすと、さっそく自分を慰めようかと思ったが、ふと、扉の錠を閉めていない事に気づいた。まぁ、この時間に他に誰か訪問者が来るとは思わないが、もし誰かがやってきてこの姿を見られるのはまずいいからな。僕はズボンをずり降ろしたまま扉の前に戻ると、ドアノブの上に付いている回転式のつまみを回し、錠をかけた。
 この行為をするようになって気づいたのだけれど、行為の成果物には明らかにその日の体調が影響を与えている。たとえば、前日に徹夜をした日なんかは、明らかに粘度が足りなかったり量が少ない。風の引いているときなんかは逆で、水気がほとんどなく非常に粘度が高い膿の様な物が出る。暫く自己調節を怠っていて、久しぶりに調節を行ったりすると、一回では全て出し切ることができず、自分でも制御できない量をティッシュの上にぶちまけてしまう。この時ばかりは二枚を重ねても危うい。そして、自己嫌悪に似た平静に陥る暇もなく、二回目の行為に及ぶのだ。僕はあまり、友人とそういう話はしないのだけれども、多分男としては普通の部類の人間なんだろう。抑えるのが人として正解なのか、更に強くなるのが生物として正解なのかは、僕には分からないが、とりあえずは、今のままで良いように思っていた。
 この日、僕は二日ぶりに行為に及んだので、二回連続で行為に及んだ。三回目もやろうかと思ったが、流石に今からそれをやっていたら、明日の授業を眠い目をして受けることは間違いなかったので、そこは自重した。ズボンを引き上げると、ティッシュの放り込まれたごみ箱を、入り口から見て机の陰に隠すと、僕はすっかりと観鈴の温もりのなくなってしまったベッドに寝転がると、薄い布団を体の上に引き上げた。体力を消耗していたおかげで、眠気はすぐに僕の頭の上にやってきて、鈍重に覆いかぶさってきてくれた。
 虚しい行為に時々思う。僕は、はたしてこの状態から抜け出す事ができるのだろうか、と。幾つになっても、僕こんな事をずっとしている気がした。