「魔法少女風味ミリンちゃんのお兄ちゃんは脱走する」


 なるほど、ミリンちゃん、今日は病院にお泊りするつもりなのね。俺の病室で年越しパーティするって言った時から、まさか、もしやとは考えていたけれど、そうかい、そのままパジャマパーティに移行するつもりだったのかい。お兄ちゃんはてっきり、年越し蕎麦を食べたら何処かホテルにでも行くのかと思っていたけれど。いやいや、まったく。それならそうと最初に言っておいてくれよ。まぁ、深夜に中学生を一人歩かせるのも危なっかしい、そこは俺としても気づいて気を利かしてやるべきだったのかもしれないな。
 まぁ、泊まっていくのは構わない、と、思うけど、一応看護婦さんに話は通しておけよ。あと、お姉ちゃんのベッドで寝てくれ、俺はこう見えてまだ怪我人なんだからな。当たり前なのです、なんでいい歳してお兄ちゃんさんと寝なくちゃいけないのです。冗談は顔だけにするのです、と、ミリンちゃんはいつになく顔を真っ赤にして俺に言った。冗談だよ、何をそんな本気にして怒っているんだよ。皮肉屋なお前らしくもない。もしかして、俺と一緒に寝たいのか。だから、冗談は顔だけにするのです、と大きな声で叫ぶと、ミリンちゃんは手に持っていたカップ麺の袋を俺に向かって投げつけた。
 じゃぁ、ミーちゃんは私のベッドで寝て、私はお兄さんのベッドで寝ることにしますと、真顔で味噌舐め星人が言った。いや、だからそれは冗談だって言っているだろうと、俺も真顔で返す。すると、じゃぁ、私も一緒に寝るですとミリンちゃん。だから、冗談だって言っているだろうと、俺が止めるのも聞かずに、味噌舐め星人はじりじりと俺へにじり寄り、息を合わせて飛び掛かってきた。ミリンちゃんは子供だからまだなんとかなるにしても、味噌舐め星人の大人の体格は流石に受け止めるには辛い。そして、精神的にも辛い。決して胸が大きいわけでも、尻が大きいわけでもない。部分的に見ればまだまだお子ちゃまな味噌舐め星人ではあるが、やはり背丈だけを見れば大人の女の子である。兄妹という関係とはいえ、密着されれば嫌でも気分は乱れるというもの。お兄さん、覚悟してください、やぁ、やぁと、俺の胸に頬を擦り付けて、その柔らかい太ももを俺の股間に擦り付けて、楽しそうに笑う味噌舐め星人。ミリンちゃんの先ほどの言葉が頭の中に蘇る。あぁ、確かに、ここ数日というもの、病院の中でじっとしているもんだから、溜まってはいるんだよ。だから、そんな無邪気に俺にすり寄って来るんじゃない。ミリンちゃんも、味噌舐め星人も、あぁ、もう、この甘えん坊共めっ。
 付き合っていられるかと、俺は直ったばかりの足で妹たちを軽く蹴ると、病室の床の上に立った。そして、スリッパに履きかえると、ちょっと店長の様子でもみてくるわと、ベッドの上でぽかんとした表情をしている味噌舐め星人達に言った。まぁ、そんな顔をするなよ。じゃぁな、と、軽い足取りで病室を出る。久しぶりに歩くことになったが、特に違和感と言うものも感じない。途中で傷口が開くアクシデントもあったが、術後の経過は良好という奴らしいね。ちょっと、お兄ちゃん、歩いて平気なのですか。駄目ですよ、お兄さん、まだ安静にしていなくっちゃ。後ろからそんな声が聞こえてきたので、俺は振り向かずに廊下を走った。大丈夫だよもう治ったんだから。