「魔法少女風味ミリンちゃんはおせちをご所望」


 そういえば、年越しそばは食べるとして、お前らおせち料理とかは食べたいのか。物は試しとミリンちゃんに聞いてみると、食べたいのです、と、即答した。おせち料理、もう、何年も食べてないのです。お父さんも、お母さんも、おせち料理食べないから。私は、くりきんとんとか大好きなのに。食べれるなら、食べたいのです。なるほど、確かに、俺の家は昔から、この手の行事に非協力的だったな。誕生日の食卓にさんまが出たり、クリスマスの飲み物が豚汁だったり。かといって、お盆の日にカレーライスが出たりもする。無宗教というのは怖いものだねと、こうして妹に期待の眼差しを向けられると、痛感させられる。もう一人の妹である味噌舐め星人は、おせち料理よりお味噌料理の方が食べたいです、と、なんだかおせちがよく分からない感じの口調で、なんとも予想しやすい返答をしてくれた。なるほど、俺はどうでも良いんだが、お前らはおせちを食べたいのか。丸めて捨てたチラシの事を思い出す。三段重ね、くりきんとんはもちろんのこと、紅白かまぼこに海老や豚の角煮が入って一万円だ。これだけの量を自分たちで作ろうと思えば面倒だが、セット販売してくれるというのだから、まぁ、お得ではある。
 しかし、やはりお金に余裕はない。とりあえず、食べたいおせちだけスーパーでも買って、簡単な物にしておくか。じゃぁ、ミリンちゃん、また今度お見舞いに来る時にでも、くりきんとんなり、紅白かまぼこなり、好きなおせちを見繕ってきてくれと言うと、次に来るもなにも、三が日はずっとこっちに居ますよ、と、アイドルにあるまじき発言を、けろっと返した。
 おいおい、朝から晩まで芸能人が忙しいこの時期に、何をおそろしいことをさらっと言うんだ。ミリンちゃん、お前、本当に落ち目なんだな、そんなんで大丈夫なのか。失礼な、今は、私は、充電する時期なだけなのです、この時期が終わったら、もっともっと、メディアに出て、人気スターになるのです。それに、一応、こっちの方でお正月の仕事も取ったのです。仕事がないわけじゃないのです。ぷりぷりと、頬をお餅の様に膨らませたミリンちゃん。まぁ、そういう事にしておいてやるかと頭をなでると、本当なのですと俺のお腹を握りこぶしで軽く叩いた。あっ、ずるいです、ずるいです、ミーちゃん、一人でお兄さんを叩いてずるいです。私も叩きます、と、味噌舐め星人が俺の腹に飛び掛かった。止めろ、怪我人に何するんだ、お前ら。
 そうして、ひとしきり俺の腹を叩き終え満足したミリンちゃんと味噌舐め星人は、俺のベッドから下りると、一段下の所にある味噌舐め星人用の簡易ベットの上に寝転がった。なるほど、ミリンちゃん、お前がこっちに居ることは分かった。けれど、その間いったいどこに住むつもりなんだ。ホテルなんか泊まる余裕あるのか。すると、彼女はなぜか胸を張って、これを見てくださいなのですと、鞄の中から寝間着を取り出して見せた。なるほど、お着替えの準備が万端なのは分かったよ。それならどこに行ったって、ベッドと布団と枕があれば寝れるね。で、残りのベッドと布団と枕はどこだと俺が尋ねると、ここなのです、と味噌舐め星人のベッドに寝転がって、彼女は笑った。ここです、と、味噌舐め星人も、笑ったのを見て俺は頭が痛くなった。