「魔法少女風味ミリンちゃんとお兄ちゃんは待ちぼうける」


 都会からこんな片田舎まで移動するのも一苦労だ、ひとしきり僕の腹をくすぐると、ミリンちゃんは眠たそうに欠伸をして瞼を擦った。眠たいなら少し眠っていったらどうだ、隣に空いているベッドもあるし。そう、する、ので、す。子供がぐずるように肩を揺らし、手を枕代わりにする。俺の勧めなど完全に無視して、どうやら彼女はここでこのまま眠ろうという腹積もりらしい。やれやれ勘弁してくれよ、こんな狭いベッドで二人も寝れるわけがないじゃないか。こら、ここで寝るんじゃない、隣で寝ろよと、俺は彼女の肩を揺すってみたが、既に夢心地、うーんと小さく唸るばかりで一向に起きはしない。こうなれば、頭を一発叩いてやろうかとも思ったが、遠く都会から俺を心配して通ってきている可愛い妹に、そんな無体などできはしない。俺はどうしたものかと困り果てて、静かに寝息を立てるミリンちゃんの寝顔に向かいため息を吐いた。やれやれ、お姉ちゃんもお前もよく眠るね。
 思いがけずまた暇になってしまったので、俺はミリンちゃんを胸の中に抱えながら、味噌舐め星人に貸した少年誌に手を伸ばした。もう何度ともなく読んでいるので、新鮮味もなければ面白みもない。気になったページを片っ端から読んで、それでもミリンちゃんも起きなければ味噌舐め星人も帰ってこないので、しかたなく、また少年誌の表紙を捲る。ミリンちゃんと一緒に俺も眠ってしまえばよかったのかもしれない。しかしながら、既に十分な睡眠を取っていた俺には、ミリンちゃんの欠伸がうつらないくらいに元気だったし、車椅子で外を出歩こうという気分にはなれないくらいに気だるかったのだ。結局、俺はそうして一時間ほど、ミリンちゃんを腹の中に抱きながら無為な時間を過ごした。やがて、ミリンちゃんが目を覚まして、まだ眠たそうに目を擦りながら俺の顔を見上げてきた。あう、寝ちゃってましたか私。あぁ、寝ちゃってましたよお前。まったく、わざわざ病院に見舞いに来て、見舞いに来た相手のベッドで眠るなんて、お前は本当に自由な奴だな。いいじゃないのですか、家族なんだから。そう言って、ミリンちゃんは俺の体に擦り寄ると、腰に手を回して密着した。こら、お前、そろそろ年頃なんだから、そういうのは止めないか。妹に欲情しちゃうのですか、駄目おにいちゃんですね。違うよ、そういう意味じゃなくてな、もうちょっと男性に警戒心を持てと、俺は言っているんだ。心配しなくても、お兄ちゃん以外にこんなことしませんよ。下から俺の顔を覗き込んで、ミリンちゃんは悪戯っぽくそういうと、人差し指で俺の胸に小さな円を書いて見せたのだった。だから、そういうのが慎みがないって言うんだよ、まったく、困った娘だ。
 それにしても、お姉ちゃんさんはまだ帰って来てないのですか。お茶を買いに行っただけなのですよね、ちょっと時間がかかり過ぎなんじゃないですか。そうだな、随分と遅いな。まぁ、ちょっと間の抜けてるあいつの事だ、おおかた下のコンビニで味噌にまつわる何がしでも見つけて、買おうか買うまいか悩んでいるんじゃないのか。やれやれ、しょうのない奴だ。そんなに食べたいのなら迷わず買ってくればいいのにな、遠慮しやがって。本当なのです、お姉ちゃんさんには、もっとしっかりしていただきたいのです。