「味噌舐め星人の不在」


 それにしたって遅い、遅すぎる。本当に何をやっているんだ、あの味噌馬鹿娘は。少し様子を見に行ってくるか。そう言って俺が体を起こすと、ミリンちゃんも合わせて起き上がった。それ以上は言わずもがな、すぐにミリンちゃんは車椅子を用意するとベッドの前へと持ってきた。コンビニは何階なのです。二階だよ。エレベーター降りてすぐの所だ。怪我をしている足に気を使いながら俺はベッドを立つと、ベッドの前に横付けられた車椅子に腰掛ける。いいですかと念を押してから、ミリンちゃんは車椅子を前へ押した。
 病室の前を通り過ぎ、ナースセンターの前を通り過ぎ、階段の前にあるエレベーターへと俺達はたどり着いた。下矢印のボタンを押せば、すぐにエレベーターは到着した。が、それは昇りのエレベータで、中には大勢の人がひしめき合っていた。この階でその内の何人かが降りたが、それでもまだエレベータの中には大勢の人が居て、半分以上が人で埋まっていた。俺の様に、車椅子に座っている人間が入るスペースなどとてもない。それでもなんとかスペースを空けようと、手前に立っている人たちが二・三歩後ろに下がるのが、どうにも申し訳なかった。いや、俺達、下に行きたいんで、大丈夫ですよ。いや、ありがとうございます。おっかなびっくりに俺が言うと、彼らはなんだか気まずそうに顔を見合わせて、苦い笑いを浮かべて扉を閉めた。いや本当に、要らない気を使わせてしまった。気をつけた所でどうにかなるものではないのだが、こういうのは、ちょっと、精神的にまいってしまうね。
 すごいのです、平日なのに病院は人がいっぱいなのです。まぁ、面会時間は通常昼間からだからな、こんなものだろう。そんな会話をすると、俺達は降りてきたエレベーターに乗り込んだ。上りに反して、下りのエレベータはは空いていて、俺達以外に三人も中には居なかった。既に二階のボタンは点滅しており、俺は扉を閉めるボタンを押した。緩やかに下へと降りていくエレベーター、三階に一度止まり一人増員すると、俺達は二階に到着した。降りるのは俺とミリンちゃんだけ。他は見舞いの人達なのか、一階に向かってエレベーターで降りていった。本当に平日だというのに盛況だな、ここは。
 降りてすぐの所のコンビニに俺達は入った。病院内コンビニだというのになぜだか立ち読みの客が多い。中には点滴を打ちながら漫画を立ち読みしている男もいる。随分と若い感じの男だが、学生だろうか。俺の視線に気づいて振り返ったので、あわてて視線を逸らす。この年頃の男子というのは、妙なプライドを持っているから扱いがややっこしくて適わない。関わらないに越したことがないと、俺はミリンちゃんを急かし雑誌コーナーをスルーするとコンビニの奥へと進んだ。まだ見てますよと、後ろを振り向かずに言うミリンちゃん。よく分かるなと感心すると、芸能界で働いてると見られるのには慣れてますからと、中学生の癖に小凄いことを言ってのけたのだった。
 コンビニの奥。飲み物コーナーの横にある生もののコーナー。バナナやみかんといった生ものが並ぶ中に、味噌もあるかと思ったが、流石に病院内では需要がないのか、置いてはなかった。それどころか、味噌舐め星人の姿もなかった。インスタント食品のコーナーにも、コンビニの中には何処にも。