「お姉ちゃん星人の信頼」


 改めてお兄ちゃんこんにちはなのです。大丈夫だったですか、何か辛いこととかなかったですか。お姉ちゃんさんは、妹の私が言うのもなんですけれど、子供っぽくて頼りにならないから、色々と不便したんじゃないですか。けどけどもう安心、私が来たからには大丈夫なのです。お仕事は明日もお休みですから、今日はみっちりとお世話できますよ。おうおう、それはなんとも頼もしい限りだ、しかし、能美健太と違って芸能人ではない俺に、そんな優しくしても何のメリットもないぞ。ミリンちゃんのB太への下心を皮肉って俺が言うと、家族に付き合うメリットを求めるほど、私はまだ人間を止めていないのです、酷いのです、酷いのですと、顔を赤くして怒った。どこかの駄目なお姉ちゃんみたいな台詞を言ったのが、なんだか少し笑えた。
 そうだな、ますはお茶でも飲んで一息ついてくれ。それで、少し話をしよう。たった一日会ってないだけだが、俺が眠っている時のこととか、色々と話すこともあるだろう。そうですね、と、ミリンちゃんは肩透かし区、少し気負って損をしたという表情でさっそく一息をついた。先ほどまでB太が座っていたパイプ椅子に腰かかけて、先ほど名刺入れを取り出した鞄の中から、ピンク色の長い水筒を取り出すと、底の深い蓋を外して、そこに湯気立つお茶をそそいだ。長い時間を経て酸化し、茶色くなったお茶だったが、俺にはとてもそれが美味しそうに見えた。実際、ミリンちゃんはとても美味しそうにそのお茶を飲んだ。そんな顔が出来るのなら、お茶のCMでもすれば良いのに。ミリンとお茶というのはなんだか変な取り合わせだが。しかし、ずいぶんとよく喋ったもので、俺も少し喉が乾いた。なぁ、ミリンちゃん、悪いんだが俺にも一口分けてくれないか。なんとなしにミリンちゃんに頼めば、彼女はいいですよと即答し、なんの恥ずかしげもなく自分が飲んでいたコップと、自分の飲みかけのお茶を俺へと差し出した。この年頃の女の子といえば、こういう行為は間接キスだと家族でも倦厭するというのに。いいのかとおもわず、飲む前に尋ねてしまったが、何の話ですかとミリンちゃんはまったく気づいていない感じだった。自分だけがなんだか意識しているみたいで、家族のミリンちゃんにそんな妙な気を使っているのが恥ずかしくて、俺はすぐになんでもないと発言を撤回すると、コップのお茶に口をつけた。
 コップのお茶はとても熱くて、そして美味しかった。抹茶の粉末が入っているらしく、少し濁ったような口当たりが、なんだか高級に感じられる。美味しいのですか、家で私が煮出してきたのです。なんだったら、また今度来る時にも、持ってくるのです。是非お願いするよ、一日中寝ていても、不思議なことに喉はしっかりと渇くものだからな。下のコンビニでお茶を買ってくれば良いのです。お姉ちゃんさんにお使いを頼めば、それくらいはやってくれるはずなのです。いや、それがな、実は頼んでみたんだが、かれこれこうして三十分ほど帰ってこないんだよ、これが。あぁ、それでお姉ちゃんさん居なかったんですね、納得です、と、ミリンちゃんは自分の手を叩く。なんだかんだで、彼女も自分の姉のことを信頼していないらしい。愛情と信頼は必ずしも等価ではないだろうが、なんとも憐れだね、お姉ちゃん星人。