「魔法少女風味ミリンちゃんは仕事を考える」


 酷いっすよ先輩。なんで、今までミリンちゃんが妹だって黙っていたんすか。それならそうと言ってくれれば良かったのに。俺がどれだけミリンちゃんを応援してるか、先輩も知っているでしょう。いや、まぁ、確かに知っていると言えば知っているが、最近になって知ったことだし。それに芸能人の身内が居るなんてそう軽々と言えるものでもないし、こういう機会でもないと話すことだってそうないだろう。別に他意はないんだ、たまたま巡り会わせが悪かっただけでと、俺はB太に言った。もちろん嘘である。実際は、その熱狂的な信望ぶりを怖く思って、近づけさせまいと思っていた、なんて、とてもじゃないが見舞いに来てくれた友人に向かっては言えやしない。
 お兄ちゃん酷いです、こんな良いカ、素敵なファンが友達に居るなら私に一言言ってくれれば良かったのに。そうすれば、お食事ついでにサインでも握手でもしてあげたのに。ごめんなミリンちゃん、ただ、俺はお前のテレビの前でひた隠している本性を、少しでも世間様の目から遠ざけようと思っていたのさ。お食事ついでというかお食事がメインだろう。アイドルがそんな軽々しく、ファンと会食して良いと思っているのか。いや、まぁ、今はB太もアイドルだけれど。そうっすよ、芸能人にならなくても、先輩が居れば全て事足りたんじゃないっすか。先輩が紹介してくれたら、一緒にお食事とか遊園地とか水族館とか、二人で楽しい時間を過ごせたはずじゃないっすか。B太、お前は、そんな理由で芸能人になったのかよ、アーティストを目指して路上でギターを引いていたのかよ。それと、遊園地とか水族館って、そこまでいくとはミリンちゃんは一言も言ってないぞ、なにをそんな一人で妄想して熱くなっているんだ。やはりこいつ、危ない奴なのかもしれない。
 まぁ、そういう訳なので、何かあったら私を頼ってくださいなのです。子役ですけど、そこそこ芸能界には顔が利くのです。はい、ありがとうございます、観鈴先輩。B太は立ち上がると、体育会系な力一杯の返事をしてB太は深く頭を下げた。芸能界は体育会系の世界であると聞く。どこかの誰かと違って、年下にもこうして簡単に頭を下げれるB太は、意外とこの世界でも上手くやっていけるのかもしれない。案外、世話をするつもりが、世話をされることになるかもしれないなと、予感めいたことを考えて、俺は笑った。
 あっ、話しているうちにもうこんな時間。それじゃぁ、俺、店長とも面会しに行きたいんで、そろそろ失礼しますね。先輩、また機会があれば遊びに来ますんで。観鈴先輩、後で電話しますんで、そのときにメアドの交換とかお願いします。B太はバイトを終える時の様にあわただしく挨拶をすると、病室の扉に手をかけた。おう、またな。さようなら、連絡まってます、なのです。俺とミリンちゃんの言葉に律儀に振り返ると、元モヒカンの売り出し中アイドルは、愛想のいい笑顔で手を振った。視線はもちろん俺ではなく、ミリンちゃんに向かって。まったく、どれだけミリンちゃんが好きなんだよお前は。それに加え、誰に似たのか度が抜けてお人よしなんだから、もう。
 行っちゃったのです。もう少しお話しすれば、私の仕事に役立つ情報を聞けたかもなのに。反面、ミリンちゃんの生々しい発言に俺は少し辟易した。