「魔法少女風味、元モヒカンと出会う」


 店にも電話入れたら、全然知らない人が出るし。店長はどうしたんだって聞いたら、今、病院に入院中だって。それで、俺が出てったあの後、店に強盗が入ったのを知って。俺、まだ皆にちゃんとお別れも言ってないのに、どうして良いかわからなくて。俺、夢を追うのにバイト先辞めちゃうけど、それでも夢が叶ったのは先輩や店長や、あの店の仲間が居たからだと思うし。だから、だから。すんません、俺、どうにもまだ動転してて、上手く言葉にできないっす。とにかく、先輩も店長も生きててくれてよかったっす。
 そうかい、生きてて良かったか。面と向かってそう言ってくれる奴はお前が初めてくらいだよ。こっちまで、少し湿っぽくなっちまう。男泣き、大粒の涙を細めた目の間から流して、B太は嗚咽していた。店長が使えないだのなんだかんだと言いはするが、それでもあの店のクルーの結束力は固く強いのだ。B太の涙はそれを改めて思い知らせてくれた。分かった、分かったからもう泣くなよ、男の涙を拭ってやるほど、俺は優しい人間じゃないんだ。言葉に反して優しい口調で、俺はパイプ椅子に座りうな垂れるB太に向かい言った。そうっすね、男が泣くなんて、俺みたいなモヒカン野郎が泣くなんて、らしくないっすね。まぁ、今はモヒカン野郎じゃないけれどもな。お前さん、髪型と一緒に男らしさまでどこかにやっちまったんじゃないのか。そうかもしれないっすねと、B太は俺の皮肉に精一杯の笑顔で答えた。
 しばらくして、精神的に落ち着いたB太と、俺は彼の新しい仕事についての話をした。ミリンちゃんに裏をとり、それでも詐欺か手の込んだ悪戯ではないのかと心配していたが、どうやら、都路社長は本当に某大手レコード会社の社長で、B太は近々本格的に音楽活動を開始することになるらしい。会社の方針としては、ジャズミュージシャンとして展開する前に、アイドルとして売り出すらしく。契約を全面的に公開して、また、アイドルのイメージを浸透させるべく戦略的にメディア露出を行っているのだ、とのこと。
 幸いにも俺は万人受けする顔をしてるらしいっす、トークもそこそこ面白いってスタッフや褒められて。ただ、都路社長だけは、そんなのは音楽には不要の物だって怒っていますけれど。まぁ、お前の愛想のよさは、コンビニで働いてるときから光るものがあったからな。ある意味、お前は芸能界向けの人材なのかもしれない。その愛想の良さが、お前の孤高な部分のバイアスであり、一方でその長い孤独が、愛想のよさのバイアスでもあるって、社長は言うんすけど、どういう意味すかね。さぁね、とにかく自信を持ってお前の思うように、思いっきりやれば良いんじゃないのかね。うっす、頑張るっす。絶対にトップアーティストに昇り詰めるっす。その意気だ。しかし、有名になっても、俺達は仲間だぜ。気兼ねなく人に自慢したいからな、今テレビに出てる能美健太は、俺のバイト先の後輩だったんだって。昔はモヒカンだったんですよって言ったら、どれだけの人が信じてくれるんすかね。
 楽しい笑いが病室に満ちる、そのとき、病室の扉が横に開いた。なんだよお茶一つで随分遅かったじゃないか、そう言って、俺は扉の方を向く。
 なんの話なのですと、そこには魔法少女風味ミリンちゃんが立っていた。