「魔法少女風味ミリンちゃんのお兄ちゃんは漫画を読む」


 醤油呑み星人に押されてコンビニの横を通り、エレベータの前に出る、最上階まで上りきっているエレベータを、上へのボタンを押して呼ぶと、また車椅子を揺らして中に入る。特に寄り道をしたい場所も思いつかなかったので病室のある階数が印字されたボタンを押せば、すぐにエレベータの扉はしまり、重力に逆らって上へと上がり始めた。そろそろ深夜になろうかという時間である。流石に、エレベータを止める人は居らず、すぐに俺たちは目的の階につく事ができた。降りるとエレベータの扉はすぐに閉まったが、階を移動する気配はなかった。これなら、醤油呑み星人も帰るとき楽だろう。
 中で眠っているだろう味噌舐め星人を気遣って、ゆっくりと醤油呑み星人が病室の扉を引く。案の定、俺の可愛く世話のかかる妹君は、俺が出て行ったことなどすこしも気づいていない様子で、簡易ベッドで規則正しい寝息を立ていた。羨ましいくらい気持ちよさそうに寝てるわね。悪戯してやろうかしら。やめてやってくれよ、今まで俺の看病で疲れてるんだから。今は静かに眠らせてやってくれ。あら、貴方にしては随分と優しいことを言うのね。甘やかせば甘やかすだけ付け上がるわよ、その娘。そんな事は知っているけれど、自分の事を心配してくれた人間を無下にするほど、俺も下種じゃないよ。あら、それじゃ私も貴方の事を一応心配してたんだけれど。だからこうして、店長に会いに行く口実に、黙って使われてやっているじゃないか。確かにそうね、ありがとう、と、言っておくわ。膝の上の週刊少年誌を机に置いて、車椅子から降りた、すぐ横のベッドへと上った俺に、顔に冷笑を浮かべて醤油呑み星人が皮肉っぽく答えた。どうして、素直にありがとうといえないものかね、そう呟きながらも、素直に言われたら言われたで気持ち悪いがと、いつもの彼女の復活に少なからず俺は安堵した。それじゃぁお休み。また明日も店長の所に行くんだったら来てくれて構わんよ。そうね来させて貰うわと、醤油呑み星人は扉の前に立ち振り返らずに俺に言った。
 味噌舐め星人が気持ちよく眠るのを邪魔しないように、カーテンを締め切り、ベッドに備えつけられた蛍光灯を点けると、俺は週刊少年誌の扉を開いた。巻頭のグラビアにはそれほど興味のないアイドルが。奇跡のFカップだとかあおりに書いてあったがきがするが、別に胸の大きさなどどうでも良い俺には少しの興奮も与えられはしない。さっさとスルーして俺は巻頭の漫画を読み始めた。それは初めて見る漫画だったが、一話完結のギャグ漫画だったのでそこそこ楽しめた。なぜキャラクターがイカなのか、それが疑問で仕方がなかったが。もし、単行本が下のコンビニにあるようなら、買って読もうかと思えるくらいには楽しめた。他にも、中高生の頃、友人に薦められて読んだギャグ漫画だとか、カイジが顔負けするということはないにしても、そこそこスリリングなギャンブル漫画だとか、そこそこに楽しめた。
 そうして一通り、全ての漫画を読みきる頃には、すっかりと眠気が俺の頭の隅には渦巻いていた。とどめの一撃とばかりに巻末の目次、作者のコメント欄を読めば、電気を消すのが億劫になるくらいに、目蓋は重くなり、なんとか最後の気力で蛍光灯のスイッチを切れば、すぐに意識が無くなった。