「味噌舐め星人の嫉妬」


 その後、俺と味噌舐め星人はぐるりと城の中を一周して病院に帰る事にした。なにかと段差の多い城の中で何度か車椅子はこけそうになったが、俺の早めの注意と味噌舐め星人の悪運でなんとか横転するような事態になる事はなかった。一周を終えた帰り際、おでんを買った店の姿を見て、味噌舐め星人の足が少し止まりはしたが、特に問題もなく俺たちは病院へ帰還した。
 むしろ問題があったとするならば、病院に帰ってからだ。エレベータで病室のある階にあがり、味噌舐め星人に押され歩き始めた矢先、すぐにナースセンターに待機していた看護婦に声をかけられた。先ほど部屋にご飯を運んできた女とは違う、少し若い感じの看護婦さんだった。ちょっと、貴方達どこへ行ってたんですか。黙って外出したりしないでください。回診に行ったら部屋にいなくて、どこへ行ったのかと心配したんですよ。それは、しまった、全然回診の事など忘れていた。というか、自分が病人だと言う事もすっかり忘れていた。すみませんすみませんと、車椅子に座っているので曲がらない腰を、無理くりに曲げて謝れば、もうっと彼女は息を吐いた。
 とりあえず、今日の回診はキャンセルということで、明日は午前中に勝手に出歩かないでくださいね。それじゃぁ、妹さん、車椅子を押すの変わりますよ。若い看護婦はそう言って味噌舐め星人から車椅子の取っ手を奪うと、病室へと向かって歩き始めた。正面で見ていたときからちょっと思っていたのだけれど、この看護婦さん、胸が大きい。具体的に表現するならば、ハンドボールサイズの大きさがある。メロンやスイカのレベルまでには至らないが、これはちょっと、胸には余り興味のない俺にも、目の毒だ。加えて、それが後頭部に水枕のようにたぷたぷと当たったとなると、これはもう、静止破壊兵器以外の何物でもないんじゃないだろうか。不名誉を承知で言うならば俺は興奮していた。下品を承知で言うならば、俺は勃起していた。自然彼女の無防備な胸の破壊兵器から頭を離して前かがみ。しかし、どうしたんですか、どこか調子が悪いんですかと、すかさず頭の上から覗き込んでこられては、頭頂部にその殺戮兵器を落とすようにされては、どうしようもない。
 助けてくれよと隣を歩く味噌舐め星人に顔を向ければ、何だろうか、彼女にしてはちょっと珍しい静かな笑顔を見せてくれた。いや、笑っていないで助けてくれよと、少し目の端が潤む。お兄さん、お兄さん、顔色がおかしいですよ、赤かったり青かったり、どうかしたんですか。いや、なんでもないよ、それより、やっぱり看護婦さんと押す役を変わってやってくれいないかい。やっぱり勝手知ったる相手のほうが、安心するからさ。いえいえ、今日はもう私、疲れましたから、お兄さんを外に連れて歩いて疲れましたから、ちょっともう無理です。笑顔を崩さすに俺に言い放った味噌舐め星人。その言葉の中に背筋が凍る様な感覚を覚えて、俺の背中に冷や汗が吹き出た。
 俺の不安は見事に的中し、病室から看護婦さんが出るや否や、味噌舐め星人はあからさまに頬を膨らませて不機嫌になった。何をそんなに怒ってるんだよ答えは分かっていながら尋ねれば、自分の胸に聞けば良いのですこのスケコマシむっつりすけべ変態お兄さんと、ミリンちゃんの様な事を言った。