「惨劇の余韻」


 気づけば辺りは暗く、俺はベッドの上で眠っていた。傍らには味噌舐め星人が涙を瞳に浮かべて眠り、窓の外から聞こえてくる雨音に静かにその息を混ぜ込んでいた。なぜだか、彼女にとても酷い事をしてしまった気分になった俺は、上体を起こして彼女の頭を静かに撫でた。くすぐったそうに顔を歪めはしたが彼女が起きることはなかった。随分とよく眠っているようだ。
 再びベッドに背中を預けると、俺はベッドの横におかれたローラーのついたテーブルを引き寄せると、備え付けられているスタンドを点けた。ちょうど見計らったようにテーブルの上には新聞が置かれていた。普段ならそんなもの読みもしないくせに、俺は新聞を手に取る。谷折りになったチャンネル欄のページを覗くと、とりあえず俺はその上端の日付を見た。俺と店長が倒れた日から起算するよりも、クリスマスから数えた方が幾らか早い。やれやれ、クリスマスを寝て過ごすなんてとんだ災難だね。まぁ、起きていたからといって、どうせバイトをして過ごすことになったのだろうけれど。
 そう、俺たちが居なくなったコンビニはどうなったのだろうか。ちゃんと営業できているのだろうか。流血沙汰の起こったコンビニだ、野次馬こそ来ても客なんてこないだろう。忙しくないとなれば、俺たちがいなくてもそこそこ仕事は回せるはずだ。それにB太は無事だ。アイツが居るならば、俺たちが居なくても、上手く仕事場を仕切ってくれるはずだ。最悪、他店から応援も来るだろう。まぁ、それでも、今月の売上は絶望的だろうが。
 テレビ欄を捲って事件事故のページを眺める。すると、小さな枠の中に、コンビニ強盗事件の犯人目覚めるという記事を見つけた。広野宗治、二十四歳。市内のコンビニに二人組で乗り込み、コンビニから逃げる途中で仲間割れを起こし、持っていた拳銃で共犯者の脳を撃ち抜いた。その後、コンビニの店員に取り押さえられるも、隙を見て逃亡。外に出ていたコンビニ店長を刺した所を、通報を受けてコンビニを包囲していた警察官によって捕らえられた。捕縛される際に、警察官を何人か刺しており、中には重傷者も出た。県機動隊が麻酔弾により狙撃し、なんとか捕縛に成功したが、今の今まで昏睡が続いていたのだという。犯人に刺されたコンビニの店長は、すぐに病院に収容され一命は取りとめたが、昏睡状態が今も続いている。また、店員の一人も足を斬りつけられ、現在店長が入院している同病院内で治療中。犯人は捕縛時に酷い錯乱状態にあった為、責任能力の有無を問うために今後精神鑑別にかけられることになる。犯人の父は市議会議員を二十年勤めている地元の有力者で、今回の事件を受けて市議会の辞任を表明している。また、犯人が宅配員として勤めていた運送会社は、事件を受けて今日付けで彼を解雇した。親しい友人は居らず、市議の父親の言葉によれば、親の言うことをよく聞く良い子だったという。ただ、実家の近所に住む人達の証言によると、平日の昼に野良猫を怒鳴りながら追い回し姿をよく見かけたのだという。
 既にニュースとしての旬は過ぎているからか、犯人の顔写真は掲載されていなかった。だが、まず間違いなく、この男が、広野宗治が、俺たちを刺した犯人に違いないだろう。悪意と殺意に、俺の奥歯が、軋み、鳴った。