「惨劇ー4」


 黙るのか、吠えるのか、生きたいのか、死にたいのか。そうやって、生意気な目で俺を見てるだけじゃ分からないよ。どっちなのか、そこの所をはっきりしてくれないと、俺もその気にはなれないじゃない。ただ俺に銃口を向けて、男は言った。また、笑っている訳でも怒っている訳でもない、まるで当たり前の事を言っているかのような表情。この世で自分が一番自分がまともな人間ですとでも言いたそうな、そんな顔をして男はそこに立っていた。
 あっ、そうか、いきなり銃なんて突きつけられても、現実味なんて沸かないよね。それじゃぁさ、これならどうかな。男は少し銃口を逸らすと、目の前に立っているカッターの男へとそれを向けた。おいおい、なんの冗談だよと、言おうとしたのかもしれない。な、の段階で、頭部を撃ち抜かれたカッター男は、脳漿と赤い血をコンビニの床にぶちまけて、倒れた。頭を貫通した弾丸が向かいの弁当コーナーに当る。店内は異様な沈黙に包まれていた。
「なぁ、答えろよ、やるのか、やらないのか。答えろって言ってんだろ」
 ふざけんなよ。何言ってんだよ、こいつ。何やってるんだよ、こいつ。仲間の頭をぶち抜いて、銃が本物かどうかを確かめさせる、その為だけに銃を打って。おかしいだろ、仲間じゃないのかよ、人を何だと思ってるんだよ、どうしてそんななんでもない顔して、人を殺してるんだよ。なんだこいつ、なんだよこの状況。どうなってるんだ、謝るから俺の日常を返してくれよ。こんなの俺はちっとも望んでやしないぞ、どうしてこんな酷い目に俺が合わなくちゃならないんだ。俺が、何か悪いことでもしたって言うのかよ。
「したよ。お前は、自分がどれだけ酷い生き物かを自覚せずに毎日を生きている。お前の様な、世界に自分の存在を謝罪して生きていない人間が、俺たちにどれだけ苦痛をあたえているのか、お前はちっともわかっちゃいない」
「ふっざけるなよ。それはてめえだろうがよ。なに自分の事を棚に上げて調子こいた事言ってくれてんだよ。ざけんな、てめぇ一人善人って面して、やる事が銀行強盗か、仲間を銃で撃つことか、あぁ、おいコラぁっ!!」
 やめろ、刺激するんじゃない、と、後ろで店長が言った。何言ってんのよ馬鹿と、雑誌コーナーで青い顔をした醤油呑み星人が叫んだ。ここまで言われて黙っていられるか、なんて、男らしい事等思って居られない。自分だってこんな勇ましい台詞を言うつもりなんてなかったのだ。気づけば、口から出ていた。我慢ならなかった、のだ、青い自分が今はとても憎らしい。
 そして、俺の後悔を嘲笑うかのように、男は冷めた視線を俺に注いだ。
「いいんだよ、俺は強いから、俺はこれを持っているから。けれど、お前はこれを持っていないだろう。だから、世の中に謝って生きていくしか、お前は生きていちゃいけないんだ。そうでないと、俺がこれを持っている、意味がないだろう。それで、どうだい、その目はやるってことで良いのかい?」
 銃口が俺に向けられる、はい、いいえ、を言う様な状況ではない。既に返事は一つに絞られていた。あとはそれをいつ口にするか、いつ、殺される覚悟を決めるか。避けれるか、拳銃を、無理だね。じゃぁ、謝って、許してもらえるか、それも、無理だね。この男が相手じゃ、意味はないだろう。