「醤油呑み星人の着付」


 なにやってんのよ、アンタ、スカートなんて履いて、豆腐の角に頭でもぶつけたの。そして、いつの間にか後ろに居た醤油呑み星人も、驚いたというか、軽蔑するような顔をしていた。おいおい、ちょっと待てよ、仕事入るのは一時間後じゃなかったのかよ。なんでお前がここに居るんだよ。そんな事を言う前に、スカートを脱ぐべきだったのだろうが、顔全体を覆う熱気がついには脳にまで届き、湯で上がってしまった俺には、そんな冷静な判断はすることはできなかった。なんでって、アイツにヘルプに入ってくれって頼まれたからに決まってるじゃない。アンタもそれで呼ばれたんでしょ。もう、こっちはシフトで段取りして生活してるんだから、そんな急に言われても、困るのに。なんでアイツは、もっとこう段取りよくできないのかしら。思いつきで呼ばれてちゃ、こっちの身が持たないわ。なるほど、例によって店長の奴が先走ってヘルプを入れたのか。まったく、それならそうと、早く言ってくれよ。来ると分かってたら、彼女に味噌舐め星人の指導は任せてたというのに。思いつきで行動して、その事を周りに報告しないから、こうして現場が混乱するんだよ。正直そういうのって、店長としてどうなのよ。
 まぁ、アイツが駄目なのは今に始まった事じゃないからね。それに、どっかの強姦魔で女装魔よりは人間的にまだ可愛げがあるわ。そう言って、醤油呑み星人は、アイスピックの様に鋭く冷たい視線を俺に向けた。そうだ、冷静に店長の批判をしている場合ではなかった。いやいや、この姿にはちょっとした訳があるんだ。誤解しないでくれよ。いやね、味噌舐め星人の奴がスカートの履き方が分からないって言うからね、実演してみせてたところなのよ。俺は醤油呑み星人に弁明をしてみたが、彼女の汚い物でも見るような視線は、俺の言葉では少しも和らぎはしなかった。信じていないのかと、脱衣スペースから顔を出している味噌舐め星人を見せてみるが、それでも、彼女の顔には少しの柔らかさも現れはしなかった。別にわざわざ履かなくても説明なんて幾らでもできるでしょう。そこで履いちゃうっていう行動に出るのが、童貞って感じで嫌ね。おいおい、俺が童貞かどうかだなんて、知りもしないのに、よく言えたもんだな。まぁ、実際の所、そうなのだけれども。
 アンタも大変ね、こんな変態お兄ちゃんと毎日暮らしてるんじゃ。変な事とかされてないでしょうね、困ったことがあったらアタシに言いなさい、そうしたらこいつ、心置きなくぼっこぼこにしてあげるんだから。おいおい酷いな、俺はそこまでお前に嫌われるようなことをしたってのかい。あるじゃないのよ、色々と。言われてみて、いざ記憶をたぐってみれば、確かに色々と思い当たる節がある。俺が思わず言葉を濁した隙に、醤油呑み星人は俺の手からスカートをひったくると、味噌舐め星人の居る脱衣スペースに入ってしまった。まぁ、あの変態には任せておけないわね。私が代わりにやってあげるわ。えっと、スカートの付け方ね、良い、まずこの服は腰に巻く物なのよ。カーテンを締切り、狭い脱衣スペースの中でレクチャーを開始する醤油呑み星人。やはり、なんだかんだと言いつつ、やってくれるもんだなと、手痛い嫌味に苦々しさを噛み締めながらも、俺は彼女に心の中で感謝した。