「味噌舐め星人の制服」


 本当に今更ながら、味噌舐め星人がスカートを履いているのを見たことがないのに俺は気がついた。本来、ウチのコンビニの制服は、というか多くのコンビニの制服は、男女共用のパンツなのだが、残念な助平店長のおかげで我が店舗では、女性店員の制服は特注のスカートだった。特注と言っても、制服ズボンと同じ柄なだけで、極めて丈が短いとか、尻のラインが浮き出る程に窮屈だとか、そういう事はないのだけれども。しょうもなく助平な事を考えつく癖に、どうにもここぞという所で度胸のない店長が作ったのだから仕方がない。おまけに、こうして今反応に困る状況に従業員を陥れてしまうのだから、本当、店長の後先考えぬ思いつきは勘弁していただきたい。
 嘆いた所で、味噌舐め星人がスカートの履き方を閃いてくれるわけでもない。俺が教えてやるのは脱衣スペースの場所についてだったが、果たして着替えの仕方まで教えてやる必要があるのだろうか。こんな時、醤油呑み星人が居てくれたなら、ぶつくさ文句を言いながらやってくれるのだろう。しかし、今日に限って、彼女は少し遅れての出勤だった。理系女子大生なっぴーちゃんが居ない今、この店に居るのは、影の店長の名をほしいままにするこの俺と、見た目に反して意外に爽やか好青年な頼れる僕らのB太くん、の二強男子店員。そして、招き猫よりありがたみのない、お飾り店長だけだ。この中で、誰が彼女にスカートの履き方を教えるのだとなれば、それはもちろん、身内の俺しか居ない訳で。もし店長に任せようものなら何をされるか分かったものではないし、B太だって、いくら爽やかと言っても男の子。妹の貞操の為には俺が一肌脱ぐというか、一肌脱がさない訳にはいかなかった。
 えっと、な、それはスカートと言って、ズボンの代わりに履くもんだ。今履いてるズボンを縫いで、それを代わりに足から通せ。えっ、えっ、待ってください、お兄さん、これは穴が一つしかありませんよ。足は二つですよ。もう片方の足は、どこに通すんですか。なるほど、穴は一つと来たか。二つまとめて一個の穴に通すんだよ、と、言ってやったが、今ひとつ分かっていない感じに味噌舐め星人は首をかしげる。だから、その穴の中に、二つとも足を通すんだよ、いいから黙って通してみろよ。少し声を荒げて俺は味噌舐め星人に言ってやった。彼女は肩をびくりと震わせると、スカートと首を脱衣スペースの中へと引っ込めた。そうして、分厚いカーテンを震わせること数十秒、再び顔を出した味噌舐め星人は、お兄さん、駄目です、これ、すぐに落ちてきますよ、すぐにするって足元に落ちちゃいますよと、涙声で言った。それはお前が寸胴だからだよ。味噌舐め星人の要領の悪さに、心ない言葉が口を吐きそうになる。あぁもう、どうしてこう、この娘はどんくさいというか、世話がかかるのだろう。ちょっとスカート貸してみろ。俺は、そう言って味噌舐め星人の前に手を突き出す。再びカーテンの中に顔を引っ込めカーテンの中で蠢くと、彼女は少し生温かいスカートを俺に手渡した。
 こうなっては、もう実演して教える他ない。良いか、これはな、こうやって足から通して、腰の辺りでホックで止めるんだよ。そうすると腰に引っかかって落ちて来ないだろう。なるほど、と味噌舐め星人が驚いた顔をした。