「味噌舐め星人の面接」


 味噌舐め星人を連れてコンビニに来たのはこれで二回目になるだろうか。最初の時は連れてと言うよりは、勝手についてきたのだけれども、そう言えば、店長以外の人間に紹介らしい紹介もしていなかった。だからだろうか、店内に入るなりB太の奴に大声で叫ばれた。B太の癖にエーだなんて、いやまぁ、ビーと叫ばれても困るのだけれども。彼は目を丸くして俺の方を見るとゆっくりと人差し指を上げて、隣に立つ味噌舐め星人を指し示した。なんすか、先輩、誰っすかその娘、うわっ、めっちゃ美人さん。えっ、先輩の彼女とかっすか。えっ、ちょっと、先輩、彼女とか居るんすか、嘘だ、俺と同じで絶対モテないタイプだと思ってたのに。裏切られた。何を勝手に失礼な事を言ってくれるんだ、この馬鹿は。雄々しく聳え立つ金色のたてがみを叩いてやると、B太は舌を出して目を瞑った。そんな、先輩、冗談っすよ、そんな本気になって怒らなくても。五月蝿い、先輩をからかうもんじゃない。
 おっ、まだ出勤時間には早いのに来てくれたね。ひょっこりと、給湯室から顔を出した店長が妙に良い笑顔で言った。いやー助かるよ、実はなっぴーちゃんが一人急病で休んじゃってさ。いや、多分彼氏とデートか何かなんだけれど。それで、人手が足りてなかった所なんだ。そうかい、それじゃアンタが一人分しっかりと働けばなんとかなるな。なんて、きつい冗談でも言ってやろうかと思ったが、これから多大な迷惑をかけることを想像すると、そんな辛辣な言葉は吐けなかった。あのあの、店長さん、お久しぶりです、いつもお兄さんがお世話になってます。おっ、妹さんも一緒か。丁度いいね。それじゃぁ、契約とかまだだけど、早速働いて貰おうかな。おいおい、そんな調子で良いのかよ、もう少し、適正を見るとか、面接するとか、しろよ。女の子が来たら、これでもかってくらい、時間かけてやってる癖にさぁ。
 制服は倉庫に用意しておいたから。着替える場所はお兄さんに聞いて。はいっと元気よく挨拶をする味噌舐め星人。うんうん、元気があってよろしいなんて、呑気なコメントをしてくれるが、こいつにあるのは元気と味噌に対する執念くらいであとはなんにもありゃしないのだということを、俺は知っている。まだ、カップラーメンの棚を並べる程度に仕事をしようと思っている店長の方が幾らかマシかもしれない。まぁ、一般従業員やアルバイトから見たら、彼の仕事ぶりも彼女の仕事ぶりも、なんかやってる程度の物だが。味噌舐め星人が俺の腕を引っ張る。さぁ、倉庫に行きましょうと言わんばかりの目をしていた。本当、なんでこいつは無駄に元気にできてるのかね。
 味噌舐め星人に引っ張られるままに倉庫に連れられた俺は、事務所の中へと通す。その中に、所謂スーパーなんかでよく見る感じの、カーテンでしきられた着替えスペースが置いてあった。一応、ここが更衣室扱いという事に店内ではなってる。それじゃぁ、そこで着替えろ。着替え終わったら、おかしな所がないかチェックしてやるから、それじゃぁ。俺はそう言うと、味噌舐め星人を着替えスペースに押し込み、カーテンを閉めた。なんとなく、そんな気はしたが、味噌舐め星人はすぐに顔を出し、お兄さん、お兄さん、この穴の空いたのはどう着るんですかと、スカートを手に持って尋ねてきた。