「味噌舐め星人の意慾」


 味噌舐め星人の労働意欲は、普段の家での態度からは考え付かないほどに旺盛だった。余程味噌を思うように買えなかったのが堪えたのか。はたまた単に気分屋なのか。恐らくは後者であるのはなんとなくわかったが、どうしてその意欲を日々の生活の中に発揮してくれないのかと俺は思う。毎日家事をきっちりやってくれれば、味噌くらい幾らだって買ってやるというのに。まぁ、それはそれとして、自分でお金を稼ぐというのが、テンションの上がる行為であることも否定はしない。俺も高校ぐらいでバイトを初めてやった日には、こんな調子だった気がする。すぐに惰性でするようにはなったが。
 台所で食器を洗う俺の背中で、味噌舐め星人は服を着替えはじめた。食器を洗い終えて俺が振り返ると、のそのそとまだ着替える途中だった彼女は、顔を真っ赤にして、もうちょっとお皿洗っててくださいと俺に言った。そんな事を言われても、もう洗う物はないのだからしょうがないじゃないか。俺は半裸の彼女の横を素通りすると、ベランダに出て、煙草を吸ういつもの調子で柵にもたれかかった。冷たく澄んだ朝の空気が肺に心地よい。もういいですよと味噌舐め星人の声がしたので部屋に戻る。すると、昨日の夜とまったく違わない服装をした味噌舐め星人が鼻息荒く玄関の前に立っていた。こいつ、服のバリエーション少ないな。外に出るなら、もう少し違う服を買ってやった方が良いのかもしれない。給料が入ったら味噌よりも服装を買うことの方を優先させるべきだ。まぁ、彼女が言うことを聞くとは思わないが。
 それじゃ、今度は俺が着替えるから、見たくないならお前も出ておけというと、彼女は大丈夫です、外はさむさむだから中に居ますと平気な顔をして言う。そのさむさむなお外に追い出しといて何を言うのかこの女は。よっぽど俺は彼女を部屋の外に押し出そうかとも思ったが、よくよく考えれば別に見られて困るようなものでもない。俺は彼女を無視すると、上着を脱いだ。おぉ、お兄さん、いい体してますね、かっこいい体してますね、ちょっと、びっくりしましたよ。抱かれたい体って奴ですね。お前、それ、意味分かって言ってるのかよ。褒めているつもりなのだろうか、嬉々とした感じに味噌舐め星人は俺にそんな事を言う。抱かれたいなら幾らでも抱いてやって構わないぞ。なんて、くだらない事を考えながら、俺はズボンとパンツを脱ぐ。流石の味噌舐め星人も、これは見ていけないと思ったのか、咄嗟に顔を逸らす。耳まで真っ赤にして、そんなになるなら、最初から大人しくしてろよ。
 そんなこんなで、二人の準備が整ったのは、午前九時を回ってのことだった。さぁさあ、お兄さん、早くコンビニへ行きましょう、ゴーゴーです。うざったいくらいに元気な味噌舐め星人を適当に相手にしながら、俺はコンビニへと向かった。この女と一緒の職場で働くのは、やはり不満だったが、店長が雇うと言ってしまったのだからしかたがない。いざとなったら、店長の責任にしてしまえばいい。というか、俺はこいつの仕事ぶりに対してまで責任を持つことなどできん。俺は親ではないのだ、まぁ、兄ではあるらしいのだけれども。もうっ、なんでお兄さんそんなつまらない顔してるんですか。じゃぁ、なんでお前はそんな無駄に嬉しそうなんだよと、俺は妹に言った。