「味噌舐め星人の震撼」


 スターシップトゥルーパーズは何度見ても酷い映画だったが、何度見ても面白い映画でもあった。人外の敵と戦うというのは見ていて少しの罪悪感もないし、彼らが無慈悲に仲間を皆殺しにしていく様は、皆殺しにされる側に存在する生命体としては、とても恐ろしくスリリングであった。やたら長々しく尺を取られて、雰囲気的な恐怖で人を驚かすよりは、こういう直接的で生存本能に訴えかけるような恐怖の方が、個人的にではあるが怖がれる。もちろん、この映画はホラー映画なんかではないのだが。そうそう、主人公が一兵卒であるというのもそそられる設定だ。学生時代のガールフレンドがパイロットで、身分的に引き離されていく中、自分の腕一つでのし上がっていくというのは、ある種の男の浪漫というものだ。もっとも映画全体を総括すれば、あの映像は、その男の浪漫を利用した、軍隊のプロバカンダ映像であり、現実世界において戦争へと若者を軍へと誘い込む、軍隊広報へのオマージュという位置にあるのだろうが。なんとも、わかりにくい皮肉だ、いや、皮肉で言っているのかどうかはわからないが。あまりに出来すぎた、軍隊でのサクセスストーリーに、ある種の嘘くささを感じつつも、楽しめるというのが、なんとも広報らしいじゃないか。もし地球が宇宙人にされるようなことがあるならば、あの映画を見せれば地球防衛軍に志願する若者も増えることだろう。とまぁ、そんな事は些細な事で。俺は、俺の腕を抱き枕代わりにして、震える手でホールドする味噌舐め星人を見た。頭からすっぽりと布団を被った彼女は、歯を噛み鳴らし、視線を逸らしながらテレビを見ていた。
 お兄さん、お兄さん、こんな怖い怖いの見るのやめましょうよ。怖すぎますよ、出てきたらどうするんですか、違うのに変えましょうよ。もっと、わいわいできゃぴきゃぴで楽しいのが面白いですよ。こんな、ぎゃーぎゃーでがーがーでわーわーなの見てても面白くないですよ。怯える味噌舐め星人の意見を、いや俺は面白いぞと、おそらくは爽やかな笑顔とともに一蹴する。やーやーやーと、チャゲとアスカのそれとは違う感じに叫ぶと、激しく俺の腕を揺さぶる彼女を無視して、俺はテレビの音量をあげる。ぎゃーぎゃーとがーがーとわーわーが一際大きくなり、さらに目深に布団を被ると、彼女は布団越しにでもそれと分かる感じに、体を震わせるのだった。怖いなら見なければ良いのに、中途半端に見るからこんな事になるのだ。どうやら、怖い物見たさというか、好奇心というのが厄介なのは、宇宙人も同じらしい。
 お、お、お、お兄さん、手、ぎゅってして、良いですか、にぎにぎしても良いですか。もう既に腕に抱きついておいてそういう事を言うか。今更、手を握るのも腕を握るのも変わらんよと思ったが、あえて俺はそれを聞こえないふりをしてみた。ふりをして、味噌舐め聖人がどういう行動にでるか楽しんでみる事にした。彼女は、俺が返事をしないとすぐにもう一度不安そうな声で、お、お兄さん、手握らせてください、お願いします、と俺に頼んだ。
 それも無視すれば、酷いです酷いです、無視しないでください、と、いつもの感じになるかと思ったが、不思議と彼女は俺の腕を締め付けるだけで、それ以上は何も言ってこなかった。それは少し予想外の反応だった。