「味噌舐め星人と洋画」


 ちょうど皿を洗い終えるタイミングで、クイズ番組のエンドロールがテレビに流れた。あぁもう、お兄さんが遅いからですよ、終わっちゃったじゃないですか、一緒にできなかったじゃないですか。別に俺は彼女と一緒にクイズなんてやりたくなかった訳だが、どうして怒られなくちゃならんのだろうか。むしろ、こっちがこの怠け者にげんこつのひとつくらいくれてやりたい程だ。それでも、ほっぺたを丸く膨らませて、ハムスターのような顔をする彼女の顔を見ればそんな気も失せるというか、笑いに変わってしまう訳で。俺はその顔は反則だろうと笑いをこらえながら、黙って彼女の隣に座った。
 民放九時のニュースが流れる。せせこましい師走を迎えながらも、たいした事件が怒らないのだから、この国はつくづく平和なものだ。こんな調子でこれからも、この国は年を越していくのだろう。きっと、俺が病気で死ぬくらいまでは。寿命で死ぬまではと言うほどに平和ボケはしていない。不摂生な生活の長い俺の事である、きっと最後はどこか体を悪くして、周りに迷惑を振りまいて死ぬに決まっていた。もっとも、迷惑かける相手なんて、居ないも同然だが。せいぜい、俺が居なくなって困るのは、この居候女と、店長くらいだろう。その店長も、醤油舐め星人が居れば、きっと大丈夫だ。
 なんて、健康その者の人間が、何を要らない心配をしているのだ。こういうのを杞憂と言うのだ。そんな事は中学生でも知っていることだぞと、俺は自分を嘲笑った。ニュースが終わり、天気予報が始まり、そして、洋画の予告が流れる。今日の映画はスターシップトゥルパーズ。隣で腹を見せて寝転がっている宇宙人とは随分と違う、宇宙人によるSF戦争映画だ。いや、見た目的には随分と違うが、凶暴さ的にはあまり大差はないかもしれないな。
 なんですか、なんですか、さっきの大きな虫さんは。なんなんですか、あの、怖い虫さんは。私、あんなの私は見たことありませんよ、お兄さん、あんなの本当の本当に居るんですか。どこに居るんですか、この近くには居ませんよね、ねっ、ねっ。居る訳がないだろうに、何を言っているんだ、この宇宙人は。フィクションだよフィクション、と、言おうとして、そう言えばこの娘と一緒にSF映画を見るのは、今まで色々あったが初めてだということに、俺は気がついた。なるほど、そりゃ勘違いもするだろう。ふと、このまま俺が嘘を吐き続ければ、彼女はいったいどんな顔をしてくれるのか。
 いや、あれは、近所で見たことがあるな。確か、昨日の夜、家に帰ってくる途中で、出会った気がする。そうだ、俺はあいつに襲われそうになって、急いで走って逃げたんだ。見た目からしてあまり知能のよくなさそうな奴らだったから、巻くのはそんなに難しくなかった。深夜で暗かったのもよかったな。けれども、今思うとちょっと生きた心地のしない出来事だったな。よくもまぁ、こんな与太話が次々に口を吐いてくるものだ。自分の嘘つきぶりに少しあきれながら、俺はさも先ほど予告編で現れた化け物達を見たように言う。すると、みるみる顔を青ざめさせて、彼女は布団を体に巻きつけると、俺の隣に擦り寄った。お兄さん、チャンネル代えましょう、もっと楽しいのにしましょうよ。嫌だねと、とても爽やかな気分で彼女に言ってやった。