「味噌舐め星人の所為」


 家に帰るとすぐに電気ストーブのスイッチを入れた。コートも脱がずにストーブの前に陣取る味噌舐め星人。その頭を握りこぶしでど突き、ちゃんとハンガーにコートを通してかけるように指示すると、俺は台所に立った。お夕飯作るんですか、だったら、私もお手伝いします。そういうのは、近くに来てから言うもんだ。俺の注意をしれっと無視して、コートを脱がず電気ストーブに手をかざす彼女を皮肉ると、ポールトマトの缶とパスタ、イカやエビにあさりが入った冷凍のシーフードミックスを袋から抜きだし、銀色をした狭いキッチンの上に置いた。お前、パスタ食べるか、味噌料理じゃないけど。味噌料理じゃないと食べれません、お兄さんそれくらい知ってるでしょう。だから、お味噌料理にしてください、お味噌入れてくれたら食べられます。じゃぁ、今晩はお前はご飯なしだ、スーパーでお味噌を十秒チャージしてきたから良いだろうというと、うそうそ、大丈夫なのですたべられるのです、お味噌は自分で混ぜますから、私の分も作ってくださいと、調子の良い言葉が返ってきた。やれやれ、こっちとしては二人分作るのが面倒臭くて、食べるか聞いたのだが、そう言われてしまっては作るしかないな。
 缶の底だか頭だか、とにかく円筒の端を缶切りで切り裂くと、てこの原理でこじ開ける。水っぽく甘酸っぱい匂いが俺の鼻をついた。そう、この匂いだ。子供っぽいと昔から、母やミリンちゃんにから分かれた物だが、俺は生のトマトが食べれない。いや、食べれないということはないが、食べたいと思いたくない程度に嫌いだった。しかしながら、なぜだか、加熱したトマトに関しては、特にパスタに関しては、なぜだか普通に食べられた。なので、トマト特有のこの匂いを嗅ぐと、好悪の入り交じったどうにも複雑な気分になるのだ。一刻も早く、これを煮詰めてしまわねばならないな。俺はすぐにキッチンの下の収納棚から、小さな鍋を取り出した。毎日みそ汁を作るのに使っている片手で使う事のできる小さな鍋だ。先ほどの味噌舐め星人の言葉を思い出す。トマトの味噌汁。あるいは火を通したそれは、パスタの様に美味しいのかもしれないが、見た目的にはまず間違いなく罰ゲームの品だな。
 油を軽く引いて、ポールトマトを鍋にぶちこむ。凍っているシーフードをサランラップを敷いた皿の上にまき散らして、レンジにかけた。ついでにレンジの上にのっかっていた両手で持つサイズの鍋に水を注ぎ、蓋を載せるとポールトマトの隣で火にかけた。さて、そうグズグズもしていられない。買い物袋から玉ねぎとにんにくを取り出すと、皮を剥いて細かく微塵切り、丁度良い塩梅に煮崩れてきたポールトマトが漂う鍋の中へ、それらを入れた。続いてシーフード。塩コショウで味付けをすると、鍋に蓋を閉める。最初に痛めておいた方が、良い味が出たかもしれない。やはり思いつきで料理なんてするもんじゃないねと、反省したそばから、隣の鍋の蓋がぐらついたので何も考えずに、俺はパスタが入った袋の端を破って、煮立つ湯の中へ細麺を投入した。いやいや、そのまま茹でたらくっつく、塩を入れなくちゃ。どうも久しぶりのパスタ料理に、感覚がおかしいみたいだ。不手際を味噌舐め星人の所為にして、俺は麺が揺れる鍋の中に、塩を振り入れるのだった。