「店長、人事権を発動する」


 おい、勝手な事を言うなよ。勝手に物事を進めるなよ。こんな使えない奴この時期に雇ってどうするんだ。仕事の邪魔こそするだろうが、手伝うことなんてまずないぞ。長いこと一緒に暮らしてる俺が言うんだ、間違いない。悪いことは言わんからこいつを雇うのだけは止めておけ。というか、止めておいてくださいお願いします。まだ電話が切れていないかったので、俺は名乗ることも忘れて、とりあえず店長の決断を撤回させるべく抗議を行った。だいたい、女とみるやこいつは見境がなさすぎるのだ。いい格好しいめ。前にA子ちゃんを雇った時だって、その場のノリで雇っていたが、その結果が手痛い失恋だったわけじゃないか。男だったら渋い顔して使えるかどうか俺やB太に相談するくせに、もうちょっと、女子を雇う時にも気をつかってくれよ。とまぁ、後半は流石に社員とはいえ口にすると抜き差しならない状況になりかねないので、アンタ女の子の頼みには弱いんだから、醤油呑み星人が居るのにそんなんで良いのかよと、適当に言葉を置き換えておいた。すると、なんだか甘ったるい声で、いやぁ、そうだね、僕には彼女がいるかららねぇ、あははは、今女の子とか新しく雇ったら、彼女妬いちゃうかね、と、なんともしまらないのろけを店長は聞かせてくれた。醤油呑み星人が新しい女性バイトに嫉妬する意味が分からない。というか、非常にどうでもいい。
 またまた、君の妹ってんだから、使えないってことはないでしょう。なになに、やっぱり親心って奴かな。可愛い子には旅をさせられないのかな。確かにウチの勤務はしんどいからね。女の子には向いてないかも。深夜勤務とかもあるし。けどまぁ、そこら辺は僕も考えるよ。なんだったら、君と一緒のシフトでも良いし、トレーナーの意味も込めて。いや、ともすると一番それが悪いパターンかもしれない。気づいた時には既に俺は呟いていた。想像するに、もし俺と同じ勤務時間だったりしようものなら、彼女はいつもの甘えん坊ぶりをいかんなく発揮して、俺に仕事を任せたっきり、おでんの味噌パックをつまみ食いする毎日を過ごすに違いない。おでんを買った客に対して、からしはお付けになりますか、みたいに、お味噌はお付けになりますかなんて聞くのだ。入りませんと言われれば、それじゃ、私が食べちゃってよろしいでしょうか、なんて、そんなコントみたいな事をしてくれるに違いない。おでん買ってお味噌入りませんなんて言うわけないだろ、常識的に。
 どうせ一緒に働くなら、醤油呑み星人をつけてやった方が良いだろう。二人共知り合いだし、醤油呑み星人は味噌舐め星人の扱い方をそれとなく知っているし。あいつに限って彼女程適任なトレーナーは居ないように思う。はたして彼女が、それを承諾してくれるかは別として、だが。って、いつの間にか、味噌舐め星人を雇うような話の流れになっているが、そんな事には俺は断固反対だ。もし、雇おう物なら、俺はコンビニを辞めるかもしれん、いや、辞めてやる、だから、勘弁してくれ。切実に、俺は店長に味噌舐め星人雇用の中止を求めた。しかし、俺の切羽詰まった思いに反して、いやいや、ここで辞めちゃったら職歴つかないし、雇用保険もおりないよと、店長はまたどうでも良い事を言うのだった。だから、そんなのはどうでもいいつて。