「味噌舐め星人の謀略」


 味噌舐め星人と肩を揃えて本屋を出る。手には漫画が無理やりに詰め込まれてはちきれんばかりのビニール袋。まさに買い物帰り。これで夕焼けこやけで袋からネギが覗いていたら、さぞかし絵になることだろう。だが、残念ながらまだ辺りは明るい三時過ぎだったし、実の所まだジャスコの中だったし、袋の中には本しかなかった。そう、本当に残念だ、これからこの格好で食料品売り場に行って、あれやこれやを食材を買わなくてはいけないと思うとおっくうで仕方ない。カートを引こうかとも考えたが、なんだか恥ずかしくて気が引けたし、幼稚な味噌舐め星人の事である、カートなんて引こうものなら乗りたがるのではないかと、そんな風に思えたのだ。事実、カートを見かけた味噌舐め星人は、興味深そうに俺にあれは何かと尋ねて来た。
 差し当たって乾麺コーナーに赴くと、俺はパスタの麺を吟味する。吟味すると言っても、量と値段を照らし合わせて、一番お得なのを選ぶだけだが。厳正な審査の結果、青いパッケージをした二キロ入りのパスタが、量に対して一番原価が安かった。ただ、安い代わりに、量があるので、それなりに値は張る。はたしてこれだけのパスタを食べるかどうかが問題だ。お前、これ食べれるかと味噌舐め星人に俺は尋ねる。むぅ、と、唸ってパスタを手に取り触ると、こんな固くて重たい食べ物はちょっと食べれません、だって、味噌舐め星人ですから、味噌しか食べれませんから、と、なんだか偉そうに胸を張って言った。いや、これは茹でれば柔らかくなってだな、とても美味しいんだぞ。いえいえ、お兄さん、そんな、私がお兄さんにいっつも騙されてばかりだと思ったら、大間違いですよ。嘘ですね、そんなカチカチのオモオモがやわやわのうまうまになるわけありません。絶対にありません。やれやれ、それがなるんだからねと、頭を抱えて、俺は異文化コミュニケーションという奴を諦めた。NOVAにでも通えば、少しは信じて貰えるのかしら。
 とりあえず、二人でこの量は多いようだ、俺は手に持ったパスタを棚に戻すと、次にグラム単価の安い赤い袋の商品を手に取った。これは一キロ。これならば、なんとか俺一人でも食べきれる量だろう。俺は袋を入れた緑の籠の中にパスタを放り込む。すると、いつの間にか、籠の中には赤味噌のパックが放り込まれていた。マックスバリューお徳用で出汁入り。なんとも経済的なチョイスだ。これはいったい、なんなんだ、と、明後日の方向を見上げて知らぬ顔をする味噌舐め星人に尋ねる。どれだけ睨んでも、彼女が何も言わないので、俺はスープコーナーの一角に移動すると、元あった棚に味噌を戻した。あぁっ、なにするんですか、なにするんですか。駄目ですよ、一度籠に入れた商品を棚に戻しちゃ。宇宙人の癖に変なマナーは知っているらしい。別に買ってやらんこともないけれど、物事にはちゃんとした頼みかたって物があるだろう。買って貰えると分かってか、味噌舐め星人はちょっと安心した顔をして、このお味噌買ってくださいお願いしますと、俺に言った。
 棚の味噌を籠に戻す。さて、それでは次は生鮮品かと、スープコーナーから出ようとすると、味噌舐め星人が俺の袖を引いた。これも、買ってください。彼女の手には、つけたりかけたりするチューブ味噌が握られていた。