「店長、従業員に見せつける」


 師走という言葉に相応しく、走っているように日々が過ぎていく。気づけば駅前ロータリーに植えられた大きな木はクリスマスの装飾に飾り、街が不必要に明るくなっている。かく言う俺が働いているコンビニの店内も、赤と白で見事に埋め尽くされてしまっていた。サンタクロースより、ここに来た方がよっぽど子供の欲しい物があるのではないか。お菓子にジュース、簡単なおもちゃにゲーム機、結構色々揃っている。大人だって楽しめるよう、コンドームも売っている。流石にこればっかりはサンタも世話してくれない。
 まったくサービス過剰だね、クリスマスに仕事だってだけでも気が滅入るのに、そんな世話のためにわざわざ出ていかなくちゃならんのかと思うと、馬鹿馬鹿しくて嫌になるよ。吐き捨てるように言うと、俺は泡の多いビールに口をつけた。まぁまぁ、そう言うなよ、そういうちょっと気の利くサービスのおかげで、お客様が足を運んでくれるんだからと、ちっとも気の利かない店長が言った。貴方がそれを言うかしらと、彼の隣の醤油呑み星人がいつもの調子で毒づく。そして、B太が誤魔化すように笑う。こうして四人で飲みにくるのもかれこれ何回目だろうか。こと大晦日に近づくに連れて、仕事のストレスを紛らわすように頻繁に行われるようになったアフターミーティングという名前の飲み会は、B太を加えてより賑やかな物になっていた。
 まぁ先輩の気持ちも分かりますよ。俺も駅前で歌っててカップルが通り過ぎると、唐突にカップル死滅しろとか叫びたくなりますもん。カップル通行税取ろうかと思いますもん。俺の前を通りたけば、このギターケースの中に金を入れていけって。お前、それはなんか犯罪だろう、まぁ、気持ちは分かるけれど、と、俺は赤ら顔のB太に言う。恵まれない独身男性に愛の手をって、レジに募金箱置こうか。それを貴方が言うかしらと醤油呑み星人がまた店長に言う。いや、言って良いだろうと、一昔前の俺ならそこで醤油呑み星人に賛同するが、最近の店長の身上を考えると、ちょっとそんな言葉は出てこなかった。ここ数日、醤油呑み星人をお持ち帰りしている店長には、確かにそれを言う資格はない。それがまんざらでもないような、醤油呑み星人も癪に触ったが、二人の関係を隠し通せていると考えている店長にも少なからず腹が立つ。はたして、いつ頃からこの二人が付き合うようになったのかは分からない。しかしながら、決まってどちらかが店を出ると、その数分後に残された方も店を出るのだ。気づかない訳がなかった。やれやれ、なんとも小賢しい事を考えてくれる。おそらく店長が考えたに違いないだろうね。そこはかとなく漂ってくるバカップルの空気に、気が滅入ってため息が出た。
 そんな訳で、この酒の席で来るクリスマスを本気で恨んでいるのは、俺とB太の二人だけということになる。それでも、B太と違って、俺には味噌舐め星人という、同棲相手がいるだけ幸せなのだが、前日の勤務から三時間の休憩を挟み、クリスマスの夜から明け方にかけてぶっ続けての夜勤であり、到底ロマンチックな夜を楽しめる分けもなく。また、あの味噌大好き、プレゼントにも美味しい美味しい味噌が欲しいと、堂々と公言する味噌舐め星人を相手に、当然ロマンチックな夜など来る訳もないように、俺には思えた。