「ビネガーちゃんは感知しない」


 ぶえっくしょん、うえっくしょん、べらぼーめーちくしょう。うーっ、お兄さん、そんな所で本なんか読んでて寒くねえっすか。部屋の中で読めばいいのに。ちゅうかなんで外なんすか。あれっすか電波ちゃんすか。電波ビンビンで、股間のアンテナビコンビコンで、ぐぇっへっへっへに毒電波を受信中ですか。気持ち悪いっすね、それこそ部屋の中でやってくださいっすよ。まぁ、部屋の中には妹さん達がいらっしゃるから扱こうにも扱けませんけれど。あ、何だったらアタシが抜いてあげましょうか。手で一発千円でいいっすよ。まぁ、ぶっちゃけた所、アタシまだバージンっすけど、こう見えて田舎じゃ乳搾りとかしてたっすから、絞るのには自信あるっす。どうっすか。どうっすかもこうっすかもねえ。お前の方が朝から思う様卑猥だよ、朝からどんだけテンション高いんだ。少し黙れよと、俺はビネガーちゃんに怒鳴った。まったく、こんな発言をファンにでも聞かれでもしてみろ。人気ガタ落ちで、事務所解雇で路頭に迷うのは間違いないね。そしたら、嫌でも毎日男のナニを絞る生活が待ってるぞ。ったく、少しは考えて発言をしろよ。いやいや、そんな、これくらいの発言でソープまっしぐらとか有り得ねえっす。どれだけエロ漫画の読みすぎっすかお兄さん。ちょっと、もう、そういういやらしい目でアタシやミリンちゃん先輩を見るのは止めてくれねえっすか。
 やはりこの女の相手は疲れる。俺は手に持っていた単行本を閉じると、頭を抱えた。そう言えば、あの夢はいったいなんだったのだろうか。この女が俺の夢の中に介入してきて、塩吹きババアと凄絶な殺し合いを繰り広げたあの夢は、本当に夢だったのだろうか。いや、夢だったのはまず間違いない。本当に、彼女は俺の夢の中に、俺の頭の中に入ってきたというのだろうか。あれはもしかして、俺が勝手に想像した、それらしい夢であり、彼女と塩吹きババアのやりとりも、俺の頭が勝手に作り出したのではないのだろうか。
 なぁ昨日の夢だが、アンタ、本当に俺の夢の中に入ってきたのか。笑われるのを覚悟で俺はビネガーちゃんに尋ねた。彼女は少し面食らって、そして目を明後日の方向に逸らすと、うぅん、今日は電波のち曇り所により痛い人が出るっすかねえと言った。なるほど、どうやら、昨日のあれは全て俺が夢想した話であり、たちの悪い悪夢であった。まぁ、悪夢なんてそんな物だ。この歳で夢の内容に振り回されて、俺という奴は何とも愚かしいね。薄ら笑いが口から漏れた。ビネガーちゃんから隠れるように俺はまた頭を抱えた。
 入ってるかっていうと入ってないっすね。厳密には。私が入れたってのが正解っすよ。まぁ、複雑なもんでね、お兄さんの頭の中に現れたのは、私の式神、ゴーストスクリプトなんすよ。精神言語で構築した、いわゆる催眠術というか、うーん、まぁ、説明するのは難しいんすよ。簡単に言えばあれですね、お兄さんの夢をコントロールさせてもらったってことっす。いやー、いきなり説明もなしでびっくりしたっすか。いやね、アタシも事がなければ黙って観察するだけのつもりだったんすけど、なんかあったみたいっすね。ちょっと何があったか話してくれるっすか。夢に出てきたアレは、私であって私じゃないんで、何があったかまではアタシは把握してねえんですよ。