「魔法少女風味ミリンちゃんのお兄ちゃんは卑猥な男だ」


 うへぇ、まいったっすね。元々からし密偵専門のアタシにゃ、成仏さすのは荷が重いとは思ってやしたが、こりゃ相当に深刻だ。幽霊を抉らせて妖怪になってらっしゃる。これで霊験あらたかなお札も利かぬとなると、アタシにゃ手の打ちようがないっすよ。フルボッコタイムっすね、アタシが泣くまで殴るのを止められないっす。いやはや、こういうのは仕事する前にちゃんと話しておいてくださいよ、ぷんぷん。いや、仕事も何もお前が勝手に初めて、勝手に騒いでただけじゃないか。いきなりそんな事を言われても。だいたい、俺は塩吹きババアのことは本当に妖怪だと思っていたし、俺たちの前から消えてしまった彼女が原因だとも思っていなかったのだ。いや、そもそも、この淫夢に原因があることも知らなかったし、ビネガーチャンが、こうして夢の中に入ってきて、暴れ回るのだって少しも予想してなかった。
「こりゃこりゃ、あまり若者を虐めてくれるなハイカラなお嬢さんや。こやつはこう見えて頭がすこぶる鈍いからのう。妹が再び自分の前に現れても、最初まったく気づきもせんだったのだから。今ではなんとか納得はしたようじゃがな。まぁそんなわけだから、あまり多くを期待せんでやってくれ」
 そうっすね、見るからに俺様気質の独りよがりオナニー野郎って感じっすからね。つうか、お兄さんまだ童貞っすよね。もしYESなら、ドドドド童貞ちゃうわって言ってください、そいでもーて、もしNOでもドドドド童貞ちゃうわで。いや、それだと俺が童貞かどうか分からないじゃないか。というか、俺にその台詞を言わせたいだけだろう。それを言うことにいったいどれだけの意味があるんだと、俺はため息をついた。まぁね、頭が鈍いのは認めるよ。確かに俺の頭は、夢の中で血みどろの激しい殺し合いを、あんたらが始めることを思いつけない、すっからかんのスイカ頭ですよ。はいはい。
 まぁ、それは良い。俺は一つ咳払いをして場の空気をリセットした。それで、ビネガーちゃんよ。こいつが、この塩吹きババアが、俺の悪夢の原因っていうのは本当に本当なのか。本当に本当っす、まぁ消去法っすけど、ミリンちゃん先輩とお兄さんに取り憑いてるのは、影響を与えてるのはまず間違いなくこの潮吹き卑猥ババアっす。酷いっすね、潮吹きババアって。ババアの絶頂潮吹きシーンなんて、鯨の潮吹きシーン並にどうでもいいっすよ。
「ほんにのう。もうちょっと、マシな名前で呼べば良いものを。こういう所がお前はデリカシーにかけるというか、常識にかけておるのじゃ、若者よ」
 じゃぁいったい他にどう呼べと。まぁ、考えればいくらでも良いネーミングはあるだろうが。そんなことはどうでもいいのだ。問題は、俺が本当に気になっているのは、彼女が淫夢の原因であることではない。彼女が妖怪ではなく幽霊であることだ。その幽霊が俺たち兄妹になにかしら、近い関係の者であるかもしれないということだ。おい、ビネガーちゃん、もう一つ訊かせてくれ。こいつが、俺たちの家族かも知れないって話も、本当なのか。こいつとはつい最近知り合ったばかりで。家族といえば、確かに一時期一緒に暮らしたが、直接的にミリンちゃんとの繋がりはないぞ。見た目から親子供くらいの年齢差があるが、叔父叔母にしてもまだ俺の身内に死人は居ないぞ。