「ビネガーちゃんは介入する」


 二つの布団に二人の人が入れば窮屈なのは仕方なく、どうにも寝苦しい夜になりそうだと、もう既に隣で寝息を立てている、味噌舐め星人の穏やかな寝顔を見ながら思った。なんと図太い女だろう。隣では赤の他人が俺たちのやりとりを好奇の目で眺めているというのに。いやー、仲良いっすね、羨ましいっすね、睦まじいっすね、微笑ましいっすね。その歳でお兄ちゃんと一緒に寝る人はなかなか居ませんよ、大切にしなくちゃ駄目っすね。茶化してくれるなよと、俺はビネガーちゃんの言葉を無視して、目を閉じる。そうして、俺が一切興味のない姿勢を示しても、おしゃべりなビネガーちゃんは俺に語りかける事を止めようとせず、無駄に眠れぬ時間が過ぎ去った。どれくらいたったか、もういい加減にしてくれと、俺が怒鳴りそうになったタイミングで、全然寝れないのです、そろそろ静かにするのですと、打撃音と共にミリンちゃんの声がした。以来、すっかりとビネガーちゃんは息を潜めてしまって、部屋の中には寝苦しいがいつも通りの沈黙が訪れていた。
 瞼が重くなり、闇の底に背中から落ちていくような、そんな感覚が俺の体を包んだ。意識は深層へと沈み込み、その深い闇の底に沈着していた感情と混じり合って、不可思議な映像を網膜に映し出す。いつもの夢、いつもの淫夢。裸の味噌舐め星人が俺の体に纏わりついて、砂糖女史が俺の背中を優しく抱きとめていた。布団の中で感じていた味噌舐め星人の温もりを思い出して、一瞬その虚の世界から抜け出そうになる。しかし、すぐに睡魔が増援を呼び脳が麻痺されて、俺は彼女達のなすがままに、その体と意識を委ねた。熟れた果実の様に柔らかい唇が俺の陰茎を舐め、きめ細かいシルクの様な白い指の腹が俺の睾丸を撫で回した。後ろから回された砂糖女史の手が、俺の胸を撫で付ける。耳たぶを噛み、首筋を舌が伝って、俺たちは深いキスをした。お互いの中へ舌を押し入れて、絡め、唾液を混ぜ合わせる。甘い香りが口の中に満ちたと思うと、上品に泡立てられたクリームの中に埋没するような感覚を俺の分身が覚えて戦慄いた。上目遣いに俺を眺める味噌舐め星人。
 あ、それ、ちょっと違うっすね。妹さんじゃないっす。騙されてますよ。
 これまでの興奮をすべて壊してしまうような間抜けな声が頭上でした。首をもたげて上を見上げると、そこにはCMで見たのと同じメイド服姿のビネガーちゃんが、何故か箒を片手に逆さまに立っていた。いや、それは立っているというのだろうか、ぶら下がっているというのが正解かもしれない。物理法則を無視して、逆立ちに俺を見下ろす彼女は、それ、違うっすよ、気づかないっすか、微妙に表情が違ってるっすと、俺にしつこく言った。微妙に違っているとはなんだ、誰がどう見たって、味噌舐め星人だろうがと俺が言おうとしたとき、ふと、その黒かった髪の色が真っ白に染まり、はっと息を吐く間に俺の前から姿を消した。動じに、心底愉快そうな笑い声が、俺の脳内でこれでもかと響き始めた。なんだこれは、どういうことだ。ここは俺の夢の中だぞ、勝手な事をしてくれるな。誰かがお兄さんの夢に入り込んで悪さしてる感じっすね、これはそう、なんというか悪霊の仕業っすよ。おいおい、デタラメを言うなよ。今時、悪霊なんて、小学生でも信じないぞ。