「ビネガーちゃんは拘束する」


 ミリンちゃんは少し考えて、ゆっくりと頷いた。それはよかったっす、社長さん心配してたっすよ。ミリンちゃん先輩はお年頃だから、気持ちに流されて自棄になったりしないかって。その点、アタシはミリンちゃん先輩を信じてましたから、大丈夫っす、猫のように放っておけばそのうち帰ってきますよって言ってたんすけどね。ホント、ミリンちゃん先輩捜索の費用として二万円支給されなきゃ、こんな所まできやしませんって。あ、まずい、これはいっちゃならんことだったですかね。事務所のアイドル探して二万円がはたして安いのか高いのかは分からないが、ご飯も食べれないと嘆いていたのが、ビネガーちゃんの嘘だということはなんとなく分かった。まぁ、それで今更食べた分の金を払えだとか、怒る気なんてのは、呆れ返ってしまってさらさらないのだが。なんともまぁ、人の心を読むのがうまい奴だ。またそんなことだろうと思ったのです。ミリンちゃんも、俺と同じ気持ちらしい。
 それで、今日は宿はどうするつもりなんだ。ここら辺にはホテルは幾らかあるが、ネットカフェや二十四時間営業の店なんかはないぞ。えっ、アタシはてっきりここに泊まらせてもらうつもりでいやしたが。まぁ、なんとなくそんな返事をしてくるだろうとは予想していた。やれやれ、人の家にピッキングで入り込んで、タダ飯食らってその上お泊まりになるとは、どれだけ厚かましいのだろう。まぁ、いきなり人の家の味噌を舐めて、そのまま居候になったどこぞの引きこもり女よりはマシだが。それにしたって、突然のことでこちらとしても準備ができていない。しかし、だ。ふと、ミリンちゃんの方を見ると、なんだか物言いたげな視線で彼女は俺のことを見つめてきた。泊めてやってくれないか、とでも言いたげだ。散々なことを言っておいて、どこかでミリンちゃんがビネガーちゃんに甘いのはなぜなのだろうか。
 お兄ちゃん、私がビネガーちゃんと一緒の布団で寝ますから、泊まらせてあげてくれませんか。いや、それだと、俺と味噌舐め星人のどちらかが寝れなくなるじゃないか。不幸な事に、今日は夜勤は入っていなかったし、明日のお勤めも昼を過ぎてからだった。なので、夜を徹して何かをするということもできないし、かと言って、残された布団は一枚だけだった。だったら、お兄さんと私が一緒に寝れば解決です。お兄さん、一緒に寝ましょう。そんな俺の心理的葛藤を限りなく無視する感じに、味噌舐め星人が嬉しそうに声をあげた。寝ましょうって、そんな、ミリンちゃんはともかくとして、他人の居る前で言う物じゃない。俺たちは、一応、世間的には兄妹という扱いになっているのだ。この歳で、この外見で、一緒に寝るだなんて、そんなのはちょっと世間体がよろしくない。なんで楽しそうっすか。もしかして、お二人さんはそういう関係。禁断な感じで愛し合ってしまった、身近過ぎるロミオとジュリエット。うにゃー、ハーレーっす、読んだことないけどハーレークイーンコミックな展開っす。もしくは昼ドラっす、ミリンちゃん先輩絡んでいかなくって良いっすか。お兄ちゃんは私のですって言わなくていいっすか。まぁアタシがそんなのさせませんけど。喰らえ、だいしゅきホールド。
 予想通りのビネガーちゃんの反応に、俺はため息を吐くしかなかった。