「味噌舐め星人の誤判」


 おにぎりと味噌を塗りたくった焼きおにぎりがちゃぶ台の上に並ぶ。いただきマスターアジア東方不敗と、なんとも懐かしいアニメのキャラクターを感謝の言葉の後ろにくっつけて叫ぶと、ビネガーちゃんは三角に握られた白飯にかぶりついた。い、いただき、ま、ま、まって何がありますか、お兄さん。ビネガーちゃんの真似をしようとする味噌舐め星人を、下品だから真似しなくてよろしいと止めると、俺は熱い緑茶を啜った。むぃむいむーむー、もがっもっもがが。口いっぱいにおにぎりを頬張りながら、手を俺へと差し出すビネガーちゃん。なんとなく、彼女がお茶を欲しがっているのだと察した俺は、底の深い湯のみに熱々のお茶を注いで渡してやった。受け取るや否やいっさい戸惑うこともなく、熱さを物ともせず飲み干すビネガーちゃん。特殊効果の様な腹の音からして、彼女の胃がどうかしてるのは間違いなかったが、どうやら彼女の口もどうかしているらしい。なんて思っていると、しばらくしてあちあちあちちと、ビネガーちゃんはお茶を熱がってみせた。
 いやー、この一杯の為にあたしゃ生きてると言っても過言じゃないっす。生き返るっすね、漲ってくるっすね、ミリンちゃん先輩のお兄さん、どうもありがとうでござんす。おもいっきり熱がっておいて言うことだろうか。やはりこの女、掴めないというか今ひとつ分からない。普段からこんな奴なのです、お兄ちゃん、あまり気にしないでください。いやまぁ、それはなんとなく、ここに来る途中で話して知っているが。ビネガーちゃん、ちょっとは大人しくしなさいなのです、お兄ちゃんが呆れてるのです。前から言っているように、ビネガーちゃんが落ち着かないと、一緒に居る私まで落ち着きのない奴扱いされるのですよ。ひいては、うちの事務所やスポンサーさんのイメージダウンになってしまうのです。もう今年で二十四なのでしょう、自重してくださいなのです。いや、まてまて、二十四だって。そんな馬鹿な、俺と数歳しか違わないじゃないか。どう見たって、見た目年齢十代、精神年齢一桁だぞ。いやだなー、ミリンちゃん先輩、女の子の歳なんてバラすなんて酷いっすよ。それに、二十四は事務所のプロフィールで、実年齢はもっとごにょごーにょごにょごにょゴニョリータって奴ですよ。およ、お兄さん、もしかして私が思いのほか歳くっててビックリって感じっすか。今週のビックリドッキリメカで、ビックリマンチョコって感じっすか。ノンノン、人は見かけによらない物っすよ。見た目は子供、頭脳は大人な名探偵くんが居るように、見た目は男、心は女ニューハーフだって居るんすよ。かく言うアッシも、つい十年前に男坂を転がり落ちた勢いでモロッコに飛んだ訳ですが。
 いい加減うざったらしくなってきたので、俺はビネガーちゃんの話を聞き流した。やっぱり、こいつの相手をするのは気がつかれる。仕事でも、もしかしたらプライベートでも、四六時中付きまとわれているミリンちゃんが、悪し様に彼女のことを言うのも、仕方ない気がしないでもなかった。
 ご馳走さマンサと訳の分からない言葉を言うと、ビネガーちゃんは満腹のため息をついて寝転がった。ミリンちゃん先輩、それでもう気はすんだっすか。明日はアタシと一緒に事務所帰れるっすかと、ミリンちゃんに尋ねた。