「味噌舐め星人の強請」


 大の大人が小生意気な子供に言いくるめられる姿というのは、見ていてあまり愉快な物でもない。ミリンちゃんめ、ビネガーちゃんを上手く調教した物だ。お願ぇしますだお代官様、アタシャもう、今のお仕事くらいしかろくに食いっ扶持を稼げねえろくでなしなんでさぁ。もうこれ以上日陰の道をあるきたくねえズラ。堪忍しておくんろう、オラに仕事をくんろう、お給料をくんろう、お弁当をくんろう、ついでに夕食も奢ってくんろう、ミリンちゃん先輩ぃ。もうかれこれ三日もご飯たべてねえだらよ。うん、とりあえず、思いついた方便を片っ端からなんの法則性もなく喋っている感じのビネガーちゃんを、鬱陶しく思うミリンちゃんの気持ちはなんとなく分かった。
 強烈な腹の音が鳴る。それはもう、掃除機の吸い取り口に紙が詰まったようなそんな音だ。あまりに強烈過ぎて、鳴った瞬間それが腹の音だと気づかないくらいに、それは激しく、そして部屋の中に響き渡った。ミリンちゃんも俺も、味噌舐め星人も、先ほど飯を食べてきたばかり。ゲップこそ出ようが腹の虫が暴れるはずもない。彼女が顔を熟れたトマトのように真っ赤にしなくても、ビネガーちゃんの腹の虫が鳴ったというのは、すぐに分かった。あー、今日はいつもより控えめっすね。風神・雷神に例えるなら、風神半人前って所っすかね。よくその指標の意味が分からない俺は、とりあえず、飯だけなら炊けるかもしれんから、食べていくかと彼女に聞いた。えぇっ、本当っすか、本気と書いてマジっすか、うっひょい、ミリンちゃん先輩のお兄さんパネェッすよ。食べてく食べてくっすよ、おにぎりにしてくれるとお持ち帰りもできるので尚嬉しいっす、うっす。と、遠慮もなく彼女は叫んだ。
 炊飯ジャーの釜を洗い、釜の中で更に米を洗い、米を程よく水に浸して釜をジャーにセットする。すぐに炊飯を初めても、一時間はかかりそうだ。少し待ってもらうことになるが、それでも構わないかと聞くと、アタシ待つわいつまでも待つわ、ご飯待つわと意味もなくビネガーちゃんは歌った。お兄ちゃん、こんな奴の為にそんなしてやらなくても良いのですよ。一度でも優しくすると、どこまでもつけあがる奴なのです、こいつの為にも情けはむようなのですよ。そう言って、ミリンちゃんは俺がビネガーちゃんの世話をするのを非難した。まぁ、確かにウザい感じの人だが、放っておく訳にもいかないだろう。いつもなら、俺だって無視しているが、この部屋に入れたのは曲がりなりにもビネガーちゃんのおかげである。ミリンちゃんと仲直りできたのも、まぁ、こいつが居なければ叶わなかったかもしれないと考えれば、少しばかりは優しくしてやるのが人の道かなとも思うのだ。なんですか、それ、お兄さん、私がやって来た時とは随分扱いが違います。酷いです、酷いです、スケコマシです。お兄さん、そんな風に私以外の女の子には優しくして、不公平です、男女差別です。あぁもう、難しい言葉を使って、これ以上話をややっこしくしてくれるな。頬を膨らまして講義する味噌舐め星人に、俺は、それじゃぁ、お前は味噌の焼きおにぎりで良いかと聞いた。お兄さん大好きです、と、現金な味噌舐め星人は、俺に抱きついた。ミリンちゃんがビネガーチャンを上手く扱うように、俺もこいつの扱いが上手くなった。