「店長、小さい女の子にも下心を見せる」


 結局、俺が味噌カツ御前、味噌舐め星人が味噌煮込みうどん定食、みりんちゃんがたまごハンバーグ定食を注文することになった。ハンバーグを選ぶとは、やっぱり味覚がおこちゃまだなとからかおうとした矢先、あぁ、そのハンバーグも美味しそうですね、お味噌がたっぷりかかかっててと、味噌舐め星人が勘違いの擁護をした。これは、味噌じゃないのですよ、ソースなのですお姉ちゃんさん。あれ、そうなのですか、茶色でどろっとしてるから、味噌なのかと思いました。まいったなという感じに顔を赤くして後ろ髪を掻く味噌舐め星人。まったく、お姉ちゃんさんってば、すぐに味噌のお話ばかりするのです。そんなにお味噌が好きだなんて、私も知らなかったのです。そりゃ、味噌舐め星人だからなと、俺はブザーボタンを押しながら思った。
 しばらくして、店員がやってきた。それも、思わぬゲストを引き連れて。
 あれ、あれれ、どうしたんだい君、こんな所で奇遇だね。あら、強姦魔に加えて詐欺師の人じゃない、どうしたのよこんな所で、また誰かを騙している所なのかしら。あらあらこんな小さい娘にまで手を出して、あんたってばクズの上にロリコン野郎なのね。おいおい、こんな衆目のあるところであらぬ噂の立ちそうなことを言ってくれるなよ。店長さん、醤油呑み星人さん。
 あぁ、お姉さんにてんぴょーさん、こんにちは。奇遇です、こんな所で会うなんて、とっても偶然です。嬉々として立ち上がった味噌舐め星人は、俺を押しのけて醤油呑み星人に抱きつこうとする。容赦なくその平らで硬い胸を、俺の肩に押し付けてくる彼女に、店で騒ぐなよ恥ずかしいと注意をすると、俺は隣の席に座った店長と醤油呑み星人に改めて挨拶した。こんちは、どうしたんすか店長、こんな所に、二人して。もしかして、デートですか。
 いやいや、デートってそんなもんじゃなくて、仕事が同じ時間に終わったから、せっかくだし、一緒にどこか食べに行こうか、ってことになってね。そういうこと、特に深い意味はないわ、と醤油呑み星人は無情にも言った。アウトオブ眼中か、相変わらず報われないな店長さんよ。哀れさが極まって少し笑えてきた。まぁ、誰かさんと違って、気前は良いし、時間も約束も守るだけ幾らかマシだけどね。嫌味と最低限の店長へのフォローを含んだ言葉が、醤油呑み星人の口から漏れた。昨日は、悪かったと思ってるよ。ちょっと野暮用ができてしまってしかたなかったんだ。なんだったら、ここの夕食奢ろうか。いいわよ、今日はこの人に奢ってもらうから。彼女が座った位置から、正面の位置に座っている店長。そんな彼に、彼女が不意にウィンクをしてみせる。りんごのように顔を赤くして下を向く店長は、とても三十代のおっさんの反応に相応しいものには思えなかった。どうにも、童貞なんて長く続けるものじゃない。まぁ、そういう俺も店長と同じ童貞なのだけれど。
 あれ、もしかして、こちらは君のもう一人の妹さん。わぁ、かわいらしいねぇ、テレビのアイドルみたいだ。はじめまして、僕は君のお兄さんの上司で、店長って言います。氷がたっぷりと入ったコップに口を付けて、ミリンちゃんは店長の挨拶を、なんとも見事にスルーした。誰かさんとそっくりで礼儀のなってないガキねと、落胆する店長の背中で醤油呑み星人が言った。