「塩舐め星人は俺の夢にも現れる」


 ひとしきり俺を非難すると、味噌舐め星人は頬を大きく膨らませてそっぽを向き、布団の中に潜り込んだ。ふて寝をするつもりらしい。全部食べてしまったのは悪かったが、起きてこなかったお前も悪いだろうと、冷たく突き放すと、恨めしそうなすすり泣きが聞こえてきた。なんだかこうして彼女に拗ねられるのは随分久しぶりな気がする。わかったよ、また今度、買ってきてやるからというと、すすり泣きは止まったが、味噌舐め星人が布団の中から出てくる気配はなかった。明日の朝になれば平気な顔で出てくるだろう。放っておく事にした俺は、ミリンちゃんの布団の横に寝転がると、味噌舐め星人の布団を少しずらして羽織る。追い出そうと何度か味噌舐め星人が俺の背中を強く押したが、暫くすると眠ってしまったのかそれもなくなった。
 瞼を閉じると自然に眠気が脳を侵食する。思考が簡略化され、視覚が脳内風景に切り替わる。今日も今日とて、俺の夢の中に味噌舐め星人と砂糖女史は裸で戯れていた。彼女達は俺が眠りの世界に落ちたことを知ると、こぞって俺の体にまとわりつき、気づけば俺は彼女達に組み敷かれていた。ピンク色のナメクジが怪しく俺の肌の上を伝っていく。一方は足の指の間を舐め、もう一方は手の指の間を舐める。彼女達は、まるで俺の体をキャンディか何かのように舐めて堪能すると、次に甘く噛みつき、口の中で転がして楽しんだ。言い難い快感が俺の体を満たしていく。こうされているだけで、射精してしまいそうだった。夢だというのは分かっているのに、もどかしい。
 ふと、高いところから俺たちの痴態を眺めている存在に俺は気がつく。それは白い顔と白い髪と白い服を纏った女だったが、塩吹きババアにしては随分と若々しい肌をしていた。ただ俺を見てほくそ笑む彼女に、夢の中の俺は声をかけようかと悩んだ。夢だというのになぜか悩んだ。結局かけることにしたのだが、それにしてもどう声をかけたものかとまた悩んだ。夢にも関わらず悩んでいた。どうしたことだろうな、不思議な気分になった俺は、彼女に向かってやっとの思いで、そんな所にいないでこっちに来いよと声をかけた。しかし、白い彼女はわかりやすい速度で首を横に振りそれを拒否した。
 拒否されては仕方ない。俺は彼女と遊ぶのを諦めて、味噌舐め星人と砂糖女史を彼女の分までかわいがる事にした。味噌舐め星人の長い髪を撫でる、砂糖女史の短く薄いヘアーをやさしく撫でる。砂糖女子が色っぽいため息を吐いて俺に抱きついてきて、俺は砂糖女子と激しく遊ぶことに決めた。残念そうに指を咥える味噌舐め星人にお預けを言明すると、ゆっくりと砂糖女子の体を押し倒し、その唇に自分の息を重ねた。ねっとりとした、彼女の口の中の感触を楽しむ俺。その時、はっきりとした笑い声が、俺の頭の上に聞こえてきた。天井を見上げれば、塩吹きババアのまがい物が、逆さの状態で直立してこちらを見ていた。なんだ、何を見ているんだ、別に見ても構わないが静かにしてくれよ。いや、そうではない。こっちも忙しいんだ、用があるのなら言ってくれ、ないのなら去ってくれ、俺は天井の彼女に聞こえるよう大声で言う。けれどやはり彼女はなにも答えず、怪しく笑うだけだった。
 気づけば俺の周りから彼女達の姿が消えていた。どこへ、行った、のか。