「魔法少女風味ミリンちゃんは、お姉ちゃん娘な妹だ」


 小さな鍋を取り出して、そこに炊き上がったご飯を放り込む。お湯を入れてかき混ぜて、鰹節と卵を入れておじやを作った。ミリンちゃんはあまりこういった食事は好きではないが、風邪を引いているのだ仕方ない。俺は普段俺が使っているお茶椀におじやを注ぐと、スプーンを添えてミリンちゃんの前に持っていった。一人で食べれそうかと尋ねると、小さく頷き、ゆっくりとミリンちゃんが起き上がったので、彼女にお茶椀を渡して、俺はちゃぶ台を彼女の前に置いた。お味噌汁できましたよお兄さん。味噌舐め星人がやけに濃い色をしたインスタント味噌汁を、ちゃぶ台の上に置いた。インスタントみそ汁を作っていたはずなのに、いつの間にか三十分も立っている。こいつに作らせるとちっともインスタントじゃないなと、俺はため息をついた。
 味噌汁とご飯を交互に食べる。時々、たくあんときゅうりの塩もみをつまむ。我が家のいつもの朝食風景。その中に、少し弱った顔をしているミリンちゃんが加わっている。ミリンちゃん、大丈夫か、味付け濃くないか。黙々とおじやをスプーンで掬い口に運ぶミリンちゃんに、俺は尋ねた。大丈夫、なのです、お母さんの、料理よりは、美味しい、のです。いつも通りの台詞だが、どことなく息がつまっていた。風邪はどうやらだいぶ辛そうだ。ミリンちゃん、ちょっと風邪気味みたいだけど、いったいどうしたんだ。ここ数日なれない場所で寝たから、よく眠れなかったのか。俺はどう尋ねていいのか分からず、そんな風にミリンちゃんに体の不調を尋ねた。違うと、思います。一週間くらい、前から、ちょっと、調子は、おかしかったので、す。スプーンが彼女の手からこぼれて、ちゃぶ台に落ちた。恨めしそうな視線を、ちゃぶ台のスプーンに向けるミリンちゃん。しかし、いつもの人を射抜くような彼女の視線と比べれば、それはまだまだ随分と柔らかい視線だった。なるほど、元から調子が悪かったのか。なんでまたそんな時に、わざわざ人の家に泊まりに来たのか。いや、家に来るように頼んだのは、俺だったな。
 とりあえず、すぐに家に帰った方が良い。この部屋じゃ三人で寝るには狭すぎるし、布団もない。衛生環境もそんなによろしくないし、なにより、俺は仕事をしている。自慢のお姉ちゃんさんは、あまりこういう時に便りにならないし、やはり家に帰って母さんに看病してもらう方が治りが早い。俺はうつらうつらと瞬きをするミリンちゃんに、ゆっくりとそんなことを言い聞かせた。すると、ミリンちゃんはなんだか凄く残念そうな顔をして、面倒くさいのですね、ミリンの世話をするのが面倒臭いから、帰ってほしいのですね、と、小さくつぶやいた。いや、そういう訳じゃない、これ以上お前の症状が悪くならないようにと思って言っているだけだ。そうは言っても、彼女の世話を面倒だと思う自分が心の中に少なからず居るのは誤魔化しがたく、気づけば俺は魔法少女風味ミリンちゃんから、顔を横に逸らしていた。
 大丈夫です、私がミリンちゃんを面倒見ます。病人のお世話は得意なんですよ、えへん。そう言って味噌舐め星人が胸を叩いた。いやいや、俺の話を聞いてなかったのか。頼りにならないと言ったはずなのだが。いいから、大丈夫です任せてくださいと、味噌舐め星人はミリンちゃんの手を握った。