「味噌舐め星人の妨害」


 鳥達の囀る声で目を覚ます。俺は久しぶりに心地のよい目覚めという奴を味わった。やはり、旅館や他人の家では勝手が違う。自分の家で寝るのが一番落ち着くし、一番よく寝られる。快眠すぎて欠伸も出ない俺がふと横を向く。たしか昨日の夜はミリンちゃんと一緒に寝たはずだったが、はたしてどうだろうか。まるでそれが夢だったのではと疑うように、俺が目を凝らすとそこには少し赤らみ汗ばんだ魔法少女風味ミリンちゃんの寝顔があった。
 うぅ、お兄さん、起きましたか。どうですか、ミーちゃん大丈夫ですか、どこも悪くないですか、一晩眠ってよくなってますか。猫が髭を洗うように手の甲で顔を擦りながら、ミリンちゃんを挟んで向かい側に眠っていた味噌舐め星人が顔を上げた。今起きたばかりなんだからなんとも言えないのに、気の早い奴だ。俺は味噌舐め星人に今から様子を見るところだと告げると、頼むから台所でインスタントみそ汁でも作って大人しくしていてくれと、彼女に頼んだ。彼女にうろうろとされていつもの調子で騒ぎ立てられては、ミリンちゃんの容体もわかったものではない。いやです、ミーちゃんのお世話をします、私もミーちゃんのお姉さんだからお世話しますと、ゴネた味噌舐め星人だったが、俺が強く彼女にどこかへ行くことを要求すると、流石に自分が役に立たないのを自覚したのか、すごすごと台所へと向かって行った。
 味噌舐め星人が消えて集中できるようになった俺は、とりあえず寝汗でずぶ濡れになったミリンちゃんの頭のタオルを取り替えた。彼女の頭の熱を受けてすっかりと生温かくなったタオル。それを固く絞って彼女の眠る布団の脇に置く。先ほど蛇口を拈って出てきた冷たい水に浸し、真新しいタオルを沈めると、引き上げて、絞って、彼女の白い白い額にもう一度あてた。ふっと、ミリンちゃんの口元がゆるんだ気がした。眠っているが、おそらくは、眠っていても辛いのだろう。そういえば昔、ミリンちゃんが今日のように高い熱を出して倒れたことがあった。ミリンちゃんと俺とが一緒に実家に暮らし、お互いがお互いを鬱陶く思っていた頃だ。その頃と比べれば、肉体的にも精神的にも随分と大人になったように思ったが、実際はやはりまだまだ年相応に子供だったということなのだろう。寒い師走の夜中に、一人部屋の外で数時間も待たされれば、風邪も引くのも無理もないというものだろう。
 ふっと、ミリンちゃんが大きく一度咳き込んだ。涙に濡れた瞳が開き、ふと俺の顔を見上げる。おう、起きたか、大丈夫かミリンちゃん、ちゃんと意識はあるな。あれ、なんでお兄ちゃんさんがここにいるんですか、オカシイです、お兄ちゃんさんは入れないように、ちゃんと二人で監視してたのに。いいから今は黙って寝ておけ。すぐに朝食ならできるからと、俺は無理して起き上がったミリンちゃんを再び寝かしつけると、そっとその頭を撫でた。くすぐったいというよりは、何をするんだという避難の表情。まぁ、そうだろうな、俺はミリンちゃんに散々に嫌われているからと、彼女から視線を逸らした。そして、変えたタオルを風呂桶に突っ込むと俺は台所に向かった。
 ありがとうなのです、お兄ちゃんさん。ふと聞き慣れない声に振り返ったが、そこには赤い顔して咳き込む辛そうなミリンちゃんの姿しか無かった。