「魔法少女風味ミリンちゃんは、ダルマのようにこけるアイドルだ」


 フライパンの中の米を二つの皿に分けて盛り付ける。一方の上にはスプーンで掬った味噌を、まるでホットケーキに添えられたバターか、アイスのように添える。熱で溶けはしなかったが、見た目に少し柔らかくなったようには感じられた。そんな一風変わったチャーハンを両手に持ち、スプーンを握り準備万端という感じの味噌舐め星人が座るちゃぶ台へ、俺は向かった。
 いただきます。二人の声が重なって、俺たちはチャーハンへとスプーンを入れる。久しぶりに作ったチャーハンは、少し塩気と油気がキツい感じがしないでもなかったが、そこそこに美味しかった。自分で作った物はなんでも美味しく感じられるという奴かと思えば、味噌舐め星人も美味しそうに茶色く染まったチャーハンを、スプーンで忙しそうにその口へ掻き込んでいた。どうだ美味しいかと、俺がスプーンを止めて聞くと、彼女ははひおいひいへふと、せわしなく口と手を動かしながら言った。そんな事をしていると舌を噛むから止めろ、ちょっとは落ち着いて話せ。俺が注意しても、味噌舐め星人は一行に食べるのを止めようとせず、皿一杯のチャーハンとレンゲで大さじ一杯の味噌を食べ終えて、初めて俺の言葉にしたがった。はい、美味しいですとっても。おかわりは無いのですか、是非ともおかわりを要求します。その人懐っこく愛らしい目を、まっすぐに向けられてはかなうはずもなく、俺は自分の皿から三分の一ほどのチャーハンをスプーンで切り分けると、きれいさっぱりなくなった味噌舐め星人の皿の上に、それを落とした。あっ、あっ、そうです、言い忘れてましたが、ちゃんと味噌もお願いしますね。おいおいそれくらいは自分でしろよと、俺はちゃぶ台の前から立ち上がると、冷蔵庫から引っ張りだしてきたパック味噌を、味噌舐め星人の前に置いた。
 食べ終わるとテレビを点けた。時刻は九時を少し回った所と、時間帯も時間帯。テレビの中では、ニュース番組ばかりやっていて、今ひとつ面白くなかった。それでも、他にすることもないので、俺は布団をちゃぶ台の下に通すと炬燵のようにし、ちゃぶ台の上に緑茶の入った急須を置いて、せんべいを齧った。隣に座る味噌舐め星人は、冷蔵庫から取り出してきた味噌を、これでもかと煎餅に塗りたくっては美味しそうに頬張っていた。あまりに幸せそうに齧るものだから、もしや美味しいのではとこっそりと試してみたが、しょっぱいばかりでとても食えたものではなかった。やはり、煎餅はスタンダードに醤油味か、カレー煎餅に限る。味噌なんてつけるもんじゃない。
 そういえば、ミーちゃん遅いですね。今日は、どうしているんでしょう。いつもならとっくに帰ってきている時間なのに。テレビから視線を逸らし、壁にかかった時計を見上げながら、味噌舐め聖人が少し心配した様子で言った。なぁに、あの異様に頭の切れる魔法少女風味ミリンちゃんだ、放っておいてもそのうちやってくるさ。それに、鍵は持たせてあるんだろうと言いかけて、俺は合鍵を味噌舐め星人に渡した覚えの無いことに気がついた。まさかと思い玄関を見ると、鍵は確かにしまっている。用心のいいことだと、俺は急いで布団から飛び出すと、ドアの鍵を開け、手前にドアを引いた。
 ドアに寄りかかっていた何かが部屋の中に転がり込む。ミリンちゃんだ。