「魔法少女風味ミリンちゃんは、少し熱っぽい妹だ」


 ミリンちゃんは眠っていた、何だか寂しそうな顔をして、ドアに背中を預けて眠っていた。ピンク色の頬は触れると熱っぽく、小さな額には皺がよっていた。もしかして、風邪をひいちゃいないだろうか。ふとそんな風に思うと心配になって、俺は彼女の頬を軽く叩いた。しかし、起きる気配は無い。無理もない、もう子供はとっくに眠る時間なのだ。俺は鉄製の床に転がっているミリンちゃんを持ち上げると、お姫様抱っこで部屋の中へと運んだ。
 ミーちゃん、どうしたんですか、大丈夫なんですか。お兄さん、ミーちゃん大丈夫なんですか、なんだか少し苦しそうな顔をしてますけど。さぁ、輪からんよとりあえず、安静に寝かしてやろうと、慌てる味噌舐め星人に俺は言った。ちゃぶ台を横にどけ、俺の布団の中にミリンちゃんを入れる。もう一度額に手を当てると、先ほどよりは熱は引いたように感じられた。真冬の夜である、外の寒さで凍えた手には、普通の体温も熱く感じられたのだろうか。いや、そんなことはないだろう。ミリンちゃんは確かに、なにかしら体の調子が悪そうな感じだった。悪いことを、酷いことをしてしまった。
 こういうときは、濡れたタオルを頭に載せるといいんですよね。強く固くしぼった台拭きを手に持ち、今にもそれをミリンちゃんに被せようという感じに立っている味噌舐め星人を俺は汚いからと止めた。じゃぁどうするんですか、ミーちゃんとっても苦しそうなんですよ。可哀想じゃないんですか。普段のみりんチャンの行動を考えればいい気味だと思うのだが、所詮は俺も人の子にしてミリンちゃんのお兄ちゃんさん。代わりに洗濯物の山の中から一枚ハンドタオルを取り出すと、固く絞ってミリンちゃんの頭に被せた。
 それから一時間、二時間と経過したが、ミリンちゃんが目覚める様子はまるで無かった。どうやら、相当に疲れているらしい。仕事帰りなのだから、仕方ないと言えば仕方ない。それに加えて、ミリンちゃんはまだ子供だ。結局俺たちは三時間ほどミリンちゃんを見守った後、彼女と同じように眠ることにした。いつ、何があっても良いように、ミリンちゃんを俺と味噌舐め星人で囲い、予備のタオルとなみなみ水が注がれた風呂桶を枕元に用意して。
 きっと、今の光景を上から誰かが見ていたなら、微笑ましいとばかりに軽く吹き出して笑うのだろう。タイトルは、仲良く川の字で眠る家族。俺が父親で、味噌舐め星人が母親という所だろう。こんな態度がでかく口うるさい娘など、まずは願い下げだったが、今から近くのネットカフェに避難するのも、せっかく入ることのできたこの部屋から、みすみす足を踏み出すのも願い下げだった。もっとも、この調子のミリンちゃんに俺を追いやる力があるかどうかは微妙な所だが。とにかく俺は俺たちの姿を俯瞰する何者かたちのために、ミリンちゃんの父親らしく、味噌舐め星人の夫らしく、すやすやと寝息を立てる二人の体に毛布と布団を描けた。二人で一つの布団は苦しい。
 ゆっくりと、俺の視界が闇色に染まっていく。混濁した視線の先で風景が曲がり、時間の感覚が麻痺し始める。どうやら、眠くなってきたらしい。俺はその流れに逆らわないように、ゆっくりゆっくりと眠りの世界に誘われ、ミリンちゃんの頭に手を載せたまま、ふと、意識を突然にして失った。