「味噌舐め星人の接客」


 いらっしゃいませ、ご主人様、インスタントのお味噌汁はいかがですか。美味しいですよ、お湯を注いで三分で出来ますよ。ご主人様が食べないなら私が食べちゃいますよ。カウンターに立っていたのは、無駄に爽やかな感じの笑顔がまぶしくて鬱陶しい、味噌舐め星人だった。少し大きめの制服に身を包み、レジ業務をしていたのは、我が家の愉快な居候にしてニート、味噌舐め星人だった。なんで、お前が、ここに居るんだよ。思わず俺は叫んだ。
 私が連れてきたのよ、アンタにどうしても会いたいって五月蝿いから。給湯室のドアが開き、のっそりと中から醤油呑み星人が現れた。二日酔いという感じではない、どちらかというと寝足りないという表情だ。どうしたのだろうか。と、そんなの決まっている、目の前の能天気さんが朝早くから押しかけるなりなんなりしたのだろう。まったく、まさかこっそり私の後をついて来てたとは気づかなかったわ。まぁまぁ、いいじゃないですか、これでいつでもお姉さんと遊べるようになるんですから。お兄さんが居ないときは、これからお姉さんの所にお世話になれば、私も退屈しませんし、お姉さんも退屈しません。ねっ、ねっ、これって名案じゃないですか、これってナイスアイデアじゃないですか、特許取れますよ、特許。そんなの取れるわけないだろうが。二日酔いでもないのに酷い頭痛がして、俺は額の辺りを抑えた。
 お兄さん、会いたかった、私もう寂しくって寂しくって、うさぎさんの様になっちゃう所でしたよ。うさぎさんになったらどうするんです、もうっ、ちゃんと会いにきてくれなきゃ嫌ですよ。いや、寂しいって、ミリンちゃんが一緒に居るだろうが。俺はちょっと突き放すように味噌舐め星人に言った。ミリンちゃんに担がれただけの彼女には、別に恨みはないのだが。なんというか、ふと意地悪を言ってみたくなったのだ。我ながら少し女々しいな。
 なんでそんなこと言うんですか、みーちゃんはみーちゃん、お兄さんはお兄さんじゃないですか。どっちも会えなかったら、私は寂しいです。どっちも大切な家族だから、会えなかったら寂しいんです。少しばかり目を潤ませて、力強い声で俺に訴えかける味噌舐め星人。頼もしいほどに家族思いで涙が出そうだが、だからって、仕事をほっぽり出しまで一緒に居る訳にはいかないんだからそこのところをいい加減分かっていただきたい。みーちゃんもお兄さんも、お仕事お仕事で忙しくって、全然家に帰って来てくれない。私は一人で一体どうすれば良いんですか、何してれば良いんですか。学生なんだから、学校行くなりバイトするなりすれば良いと思うよ。あぁ、それ良いね、結構制服も似合ってるし、どう、ウチで働いてみる気ない。これ以上話をややこしくしてくれるな、頼むから黙っててくれと、俺は店長を睨んだ。
 というわけで、今日はお兄さんを連れて帰ります。逃さないためにも、店員さんしてお兄さんを監視しますからね。いやいや、お前に仕事なんぞさせようものなら、店長以上に店の中を無茶苦茶にしてくれるに違いない。そんなことはさせるものか、大人しく給湯室でみそ汁でも飲んでろ。少し怒声を混じらせて俺が言うと、ケロッとした調子で、じゃあそうしますと味噌舐め星人は言った。なんだよちくしょう、最初から、そのつもりだったのか。