「B太はロリー太なのかもしれない」


 結局店長のしつこい誘いに根負けして、醤油呑み星人は店長に家まで送ってもらうことになった。じゃぁ、車出すからついて来て。店長は醤油呑み星人を誘って部屋から出て行った。スタッフが優秀なおかげか、車を買って維持できる程度には儲かっているのだろう。なんとも羨ましい、などと残されたB太と愚痴っていると、詰まり詰まり、途切れ途切れの、危なそうなエンジン音が、カーテンで遮られた窓から聞こえてきた。カーテンを開けて外を確認すると、無闇に明るいライトの先に、白い軽トラックの姿が見えた。
 農家だからな、きっと仕事で使うんだろう。店長と醤油呑み星人を乗せた軽トラックが走り去り、俺はB太にぼそりと言った。ロマンもクソもあったもんじゃないっすね、軽トラで送られたらと、B太があっけにとられた顔で言った。気持ちの悪い店長の事である、車で家まで送り届けそれらしいムードをつくろうなどという浅ましい魂胆なのだろうと思ったが、あれではそういう空気には、どう頑張っても無理だろう。いらぬ心配をして損をした。
 いやに後味の悪い空気に、飲みなおそうかという事になり、俺たちはお互いのグラスにビールを注いだ。店長の家で店長の愚痴を言う訳にもいかず、かといって、世間話はすき焼きを突きつつたいてい話し終わっていた。しかたがないので部屋の隅のテレビを点けると、俺たちはたまたまやっていた深夜のバラエティ番組にチャンネルを合わせた。3Dの少女達が五月蝿く喋るその番組は、今ひとつ笑いどころを掴めない物だったが、雑談混じりに見る分にはいい感じの番組だった。OLが選ぶランチパックランキング、ねぇ。あぁ、たしかにうちのコンビにでもランチパック買ってく人多いっすね。先輩は何が好きっすか。そうだなぁ、俺はやっぱりたまごかな、お前はどうなんだ。そうっすね、俺も凝ったのよりスタンダードな、ツナマヨとかが好きですね。食べ物はなんと言ってもシンプルイズベストっすよ。違いないな。
 ランキング一位の発表を前にCMが入った。お約束だななどと二人で笑っていると、ふと、ミリンちゃんがテレビに現れて驚かせてくれた。それは、ミリンちゃんをミリンちゃんたらしめた、味醂風味調味料のCMだった。どうやら、番組の大口スポンサーらしく、間髪入れずに次も他の調味料の宣伝が流れていた。バルサミコミコ、バルサミコバルサミコなのに米酢だよ、ミコなのにメイドだよ、ビネガーちゃんと特製純米酢を、よろしくね。
 ふむ、これが、ミリンちゃんをいいともに呼んだ、ビネガーちゃんか。なるほど、ミリンちゃんのCMを初めてテレビで見たとき、どうかしてると、企画を出した奴の脳を心配したものだが、こいつもまた相当おかしい。せっかくビネガーちゃんはそこそこ可愛らしいのに、歌詞で全てぶち壊しだ。
 ここの子役って、みんな可愛いっすよね、どっからスカウトしてくるんだろ。B太は珍しく鼻の下を伸ばして言った。そうか、ただ元気がいいだけだろ、別に可愛いとは思わないけれど。身内を褒める気になれず、俺はそっけなくB太に言った。まぁ、この新人の方は可愛いと思うけど。何言ってるんすか先輩、先輩にミリンちゃんの魅力の何が分かるって言うんです。突然激昂したB太に、分かるさ兄妹だものと言ってやろうかと、俺は少し悩んだ。