「ALICECHAN」


 アリスちゃん、アリスちゃん、遊びに来てやったんだぜ。いつもの調子で魔理沙が我が家にやってきた。頼んでもいないのにやって来た。キッチンを漁っては、テーブルの上にお菓子を広げ、紅茶をティーカップに注ぎ、要らないと言っているのに私の分まで注ぐ。我が物顔でさぁお茶にしようぜと、今日も彼女は笑顔で私に言う。別に紅茶なんて飲みたくないのだけれど、注がれた紅茶に罪はない。冷まして苦くするのは忍びなく、しかたなく私は人形を作るのを一時中断して、彼女のお茶に付き合うことになるのだ。
 アリスちゃん、毎日家に引きこもってたら駄目なんだぜ。たまには私みたいに、元気に空を飛んで遊ばないと駄目なんだぜ。空を飛ぶのは疲れるの、私は熱い紅茶に口をつけながら魔理沙に言った。別に引きこもっているつもりは私にはない。道で知り合いと顔を合わせばちゃんと挨拶するし、人の家を尋ねることだってする。人と会話することに恐怖を覚えるような事もなければ、ちょっとしたことで傷つくような繊細な心だって持ち合わせちゃいない。なんら魔理沙に心配されることはないのだ。けれど、何かにつけて彼女は、私の事をひきこもりあつかいしてきた、私の事を人嫌い扱いしてきた。
 人付き合いの上手い魔理沙が、なんでわざわざ私の所にやってくるのかは分からない。誰かに頼まれたのか、それとも単に私をからかっているのか。友達の少ない惨めな私に同情しているのだろうか、そんな私に声をかける事で自分に酔っているのだろうか。所詮私は魔理沙じゃないので彼女の考えは分からない。考えるだけ無駄なのだが、嫌でもそんな事を意識してしまう。
 つい、なんで毎日あなたは私の家に来るのと、私は言ってしまった。しばらくして何を聞いているのだろうと、後悔したがもう遅かった。魔理沙は手に持ったティーカップをテーブルに置くと、少しも考える素振りも見せず、友達だからに決まってるだろと私に答えた。なぜだろうか、彼女はちょっと怒っているように私には見えた。アリスちゃんと私は友達だろう。友達っていうのはこうして一緒にお茶を飲んだり、お話しするもんなんだぜ。
 そうね、けれどもこうして、毎日一緒に居る必要はないんじゃないかしらと、私は魔理沙に言葉を返した。また、言ってからどうかしているんじゃないかという気分になった。どうしてそんなことを言おうと思ったのか、自分でも理由が分からない。私はいったい、彼女に、何が、言いたいのだろう。
 魔理沙がこうして来るのは別に嫌ではない、彼女と話すのも嫌ではない、彼女に引きこもりだの根暗だの言われるのだってもう慣れてしまった。今更彼女に言う文句など何一つだってない、なのに、私はいったい彼女に何を求めているのだろうか。私の所に来る特別な理由でも欲しいのだろうか。だとしたら、なんだ、それ、気持ちの悪い。どうかしているとしか思えない。
 ごめん、なんでもないの、忘れて、私は柄にもなく少し笑って、テーブルに置かれた魔理沙ティーカップにお茶を注いだ。注ぎながら、ふと、その周辺が濡れている事に気がついた。私としたことが、紅茶を零したのだろうか、するとその濡れた箇所に、上から透明の雫が落ちてきた。涙、だ。
 あ、アリスちゃんも、わ、私と一緒に居るのは、いっ、嫌なの、か。