「味噌舐め星人の内助」


 お姉ちゃんさんお姉ちゃんさん、酷いお兄ちゃんさんが帰ってきやがったのです、私たちを苛めに帰ってきやがったのです。まだ目も半開きなら、意識も半開きな感じの味噌舐め星人の肩を揺すって、ミリンちゃんは大声でそう言った。苛めに来たねぇ。どちらかといえば俺が苛められている気がするんだが。まったく、どこでどうやってそんなに性格をねじ曲げてきたのか。まぁいつものことだ。俺はミリンちゃんの生意気な発言を一旦保留した。
 あぁもう、みーちゃん、そんなに強く揺すったら、また眠たくなっちゃうじゃないですか、ふぁあ。忙しなく上下するミリンちゃんの肩を持ち、大きな欠伸をした味噌舐め星人は、ぱちくりと目をしばたたかせた。うー、それじゃぁ、みーちゃん、お兄さん、おやすみなさい。こてんと布団に横たわると、転がるようにして掛け布団を身にまとい、再び横になる味噌舐め星人。まだ寝るのかよと、思わずミリンちゃんと俺の声が重なった。だって、まだまだ朝じゃないですか寒いじゃないですか。起きるのはもっと暖かくなってからですよ。お前は冬眠する熊かと思ったが、またミリンちゃんと声が重なるのは嫌なので、なにも言わなかった。そうしたら、ミリンちゃんも俺と同じように思ったのか、言いかけた言葉をぐっと喉元に押し込んだような顔をして、俺の方を向いた。やれやれ、やはり血という物は争えないな。
 もう十二分に朝だよ。いや、もう十二時で昼だよ。味噌舐め星人をなじるセンスについては、俺の方がまだ一枚上手だったらしい。目の前で丸まっている味噌舐め星人に、なんと声をかけようか戸惑っているミリンちゃんを他所に、俺はきつく巻かれた味噌舐め星人の布団を引き剥がす。あぁ、やめてください、まだ寒いです、いやいや、お布団から出たくありません。あぁ、お姉ちゃんさん。お兄ちゃんさんやめてください、お姉ちゃんさんが嫌がっているじゃないですか。ミリンちゃんと味噌舐め星人の悲痛な叫び声が耳に入ってきたが、俺は心を鬼にして味噌舐め星人から布団をひっぺがした。
 あぁうぅ、酷いですお兄さん、今、ストーブつかないんですよ、昨日の夜に壊れちゃったんですよ。味噌舐め星人はそういって、フェルト生地が暖かさそうな熊さんパジャマ姿で震えてみせた。そうなのですよ、寒いのです、はやく治してくださいなのですと、靴下に手袋、灰色のスウェットを二枚重ねで着込んで、これっぽっちも寒そうにないミリンちゃんが言った。
 やれやれ、ストーブが壊れたから直せだって、簡単に言ってくれるね。いや、それよりも、これから本格的に寒くなるというのに、なんということをしてくれるのだ、このお妹さん共は。いったいどんな使い方をすれば壊れるんだよ。電気ストーブだぞ、ハロゲンヒーターだぞ。俺が強い口調で問い詰めると、だってぇ、首振りが遅くって全然部屋が温まらないんですものと、口を揃えて目の前の馬鹿姉妹は言ってのけた。なるほど、確かにちゃぶ台の横に置かれたハロゲンヒーターの首は、ぐるり百八十度反対を向いていた。
 というわけで、お兄ちゃんさん、直してください、お願いします。直せるんですか、流石はお兄さん、とっても頼もしいです。無茶を言ってくれるなよ。怒りを通り越し、呆れも通り越し、俺は妹たちの頭の悪さに絶望した。